1年間におよぶビジネス人材の“DX留学”、人材育成などへの効果は
井無田:宇都宮さんは、ビジネス部門の方々が1年間、DX部門に“留学”するという「トレーニー制度」を発案されたそうですね。どのような意図で始めたのでしょうか。
宇都宮:新しい長期経営方針[1]には、事業戦略の冒頭に「リアル×デジタルで既存ビジネスの顧客価値を高める」と掲げており、リアルとデジタル両方を理解する人材が必要です。そこでリアルビジネスを推進する人材、つまり総合職に対して2年前からeラーニングなどで一般的なIT教育の機会を提供してきました。しかし、実務で使わないとDX人材といえるまでには育ちません。今のままだと、新たなサービスを考えるだけで、かなりの時間が必要になるのではないかという危機感もありました。
もちろん、デジタル人材がビジネスを理解するための努力はしていますが、ビジネス人材にDXを理解してもらったほうが変革のスピードは速いだろうと考え、2024年10月から1年間、10人程度のビジネス人材を「DXトレーニー」と称して育成します。
最初の5ヵ月間は、データ活用やマーケティング、生成AI、プロジェクトマネジメントなどのDXの基礎を学んでもらい、残り7ヵ月は、トレーニーの一人ひとりがビジネス部門の課題解決を考えます。終了後は、そこで考えたものを持ち帰って自部門で実装してもいいですし、新しいプロジェクトに取り組んでもよいでしょう。
井無田:座学から実戦まで、現場で学べる贅沢なプログラムですね。
宇都宮:そうですよね、私も受講したいです(笑)。長期経営計画のゴールである2030年までに、現場でDX活用ができるようなビジネス人材を100人は育成したいと考えています。
ただ、せっかく育成したDX人材がビジネス部門に戻ったときに、誰もその価値を理解してくれず、活躍できないという状況では困ります。そたのめ、受け入れ側の対応や卒業したトレーニーたちが集まるための仕組みなども考える必要があるでしょう。
井無田:対象となる10人は、どんな方ですか。
宇都宮:20代後半から30代半ばくらいの中堅・若手を想定しています。本人もやる気があり、所属している部門側も「ぜひDXの考え方やスキルを身に着けてほしい」と思う人材を選定することになっています。
井無田:現場の“ネクストリーダー”ですね。
宇都宮:そうです。後半の7ヵ月では、自分のアイデアを実現するためのPoC(概念実証)まで進めてほしいのですが、1人では難しいので、社外の方の協力を得て、一人ひとりにコーチを付け、壁打ち相手になっていただくような体制を組みたいと考えています。
[1] 長期経営方針「& INNOVATION 2030」(三井不動産株式会社)