男性社会で見えた、“任せるリーダーシップ”の重要性とは
井無田:「任せるリーダー」は最近増えてきていますが、ずっと前から宇都宮さんは組織や職務の変化をしなやかに受け入れ、仕事をされてきたのだと感じます。宇都宮さんが入社された年、新卒で入社された方の中で、女性は2人だけだったそうですね。当時、不動産業界はかなりの“男性社会”だったのではないでしょうか。
宇都宮:入社時は深く考えていませんでしたが、実際に働いてみると女性であることが不利に働くと感じることはありました。マンション開発を担当していたころ、物件について近隣住民の方に説明をしてまわっていたとき、ある高齢の男性から「(女性とは不動産のことを)話したくないからもう来ないでくれ」と言われたこともあります。その物件の担当は私だけでしたので、ゼネコンの男性に代わりに行ってもらいました。
システム開発同様に不動産開発は多くの方々とチームを組んで進めます。1人だけでは解決できないこともあり、周囲の協力を仰いだほうが物事が進むことを痛感し、「全部自分でやる」というスタンスを変えたのです。
今でも、理想を描いて進んでいくより、現実を受け入れてアジャストしながら問題解決にあたるほうが得意です。でも、この立場になると「将来、組織や三井不動産のDXをどのような姿にしていきたいか」といったビジョンを描き、それを言葉で説明することが求められるようになりました。そうした仕事の仕方を身に着けるために、ちょうど今悶絶しているところです。
一般化すると良くないかもしれませんが、女性は目の前のことを着実にこなしていくことが得意な一方、5年、10年先のビジョンや将来像を描くことは得意でない人が多いように思います。(不得意を克服するためには)ある程度のトレーニングが必要だと思うため、会社には必要性を伝えていますね。
井無田:ご自身で「ビジョンを描いて提示する力が足りない」と、弱みを明言される役員の方は、珍しいように思います。
DXについても「ビジネスはわかるけれど、ITについては詳しくないから」と、委譲できるところは部下の方々に任せていらっしゃいます。これによって意思決定が早くなるでしょうし、部下の方々は裁量をもって仕事をすることで成長しそうですね。
宇都宮:これまであまり意識していませんでしたが、そうかもしれません。いくら頑張っても、自分だけでできることには限界があります。メンバーを信用して頼ることは大事ですし、そのためには自分ができることとできないことをハッキリと伝えたほうがいい。特にIT・DXの分野はクラウド、サイバーセキュリティ、データ分析、システム開発など細分化されているため、社内外いろいろな人の力を借りないとより良いものができません。
井無田:DXには、宇都宮さんのようなリーダーシップのスタイルがマッチしますね。