「論証」と「発見」で導く新たな思考法
望月氏は、今まで述べた従来のロジカルシンキングは、いわば論証だけのワンオペ思考だと主張する。このような思考は、知的生産に対して次のような副作用を及ぼすという。
- 「何を伝えたいか」という自分の意見が持てない
- 批判に偏って可能性の芽をつぶしてしまう
- 周りと同じようなことしか思いつかず、驚きがない
このような状況を打破するため、望月氏は思考の中に論証ともうひとつ、「発見」という側面を見出した。論証がレシピに沿って料理を作ることならば、発見は新しいレシピそのものを生み出すことだと言い換えられるだろう。ロジカルシンキングにおいては、論証と発見という二大局面を行き来しながら思考していくことが重要だ。
発見を生み出す理論的な方法として、望月氏はチャールズ・サンダーズ・パース氏が提唱する「アブダクション(仮説形成法)」を紹介した。アブダクションとは、はじめから答え(仮説)を発想するという思考法。この思考法を実践するうえでカギとなるのは、「What if?(もし~だとしたらどうか?)」という問いかけだ。ある事象に対しこの問いかけを行い、仮説を複数出していく、いわば初期仮説オプションの幅出しをすることが、この思考法の狙いだ。仮説の幅出しを行った後は仮説を絞り込むのだが、その際「仮説がどこから出てきたのか」ではなく、「仮説がどう役立ちそうか」という視点を重視すべきだと望月氏は述べる。つまり、仮説を構築するうえで重要なのは、思考の過程ではなくその有用性にあるのだ。
また、思考していくうえで重要となるのが「問う力」だと望月氏。物事を発想する際の本質は、答えを思いつくことではなく、問いを立てることだとし、問いが持つ3つの役割を挙げた。
- 「思考エンジン」としての役割:思考を前進させるエンジンを頭に組み込む
- 「思考の照準」としての役割:問題に対するアプローチの角度を定め、焦点を絞り込む
- 「情報のマグネット」としての役割:問題解決に必要な情報を集めるマグネットになる
では、どのように問いを立てていけばよいのか。望月氏は、「クエスチョン・スコープ」という手法を提示した。これは、「前後×内外」で問いの全体像を捉えるという方法だ。ここでいう前後・内外の問いとは、以下のように表せる。
- 前後の問い:先に及ぼす影響や目的・目標、その達成手段、将来の変化について考える
- 内外の問い:対象を越えて、他の要素とのつながりを見る
こういった方法などを踏まえながら、問題の本質へ思考や行動を方向づける「キークエスチョン」を導き出し、解くべき問いを見極めていくことが重要とのことだ。
望月氏が提唱する「シン・ロジカルシンキング」は、演繹的思考と帰納的思考、そしてアブダクションという3つの思考の三位一体化を行うことで成り立つ。論理を展開する出発点となる仮説を生み出し(アブダクション)、その仮説が持つポテンシャルを示唆として引き出した後(演繹的思考)、事実を基に仮説に誤りがないかを検証し、結論に引き上げる(帰納的思考)のだ。これに問いの要素を追加し、望月氏は以下のような循環する思考サイクルを提示した。
- Question(問い):発見と論証の出発点となる問いを立てる
- Abduction(仮説):立てられた問いに対して、意外性のある仮説を生み出す
- Deduction(示唆):仮説が持つポテンシャルを示唆として引き出す
- Induction(結論):仮説・示唆の正しさを検証し、結論として引き上げる
本書では、具体的な思考の事例を交えながら、従来のロジカルシンキングのあり方とその課題点、それを打破するための新しいロジカルシンキングの手法を網羅的に示している。経営層や部下に意見を「伝える」面で課題を抱えているIT部門リーダーの方は、本書を手がかりにしてはいかがだろうか。
シン・ロジカルシンキング
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2024年7月19日
価格:2,530円(税込)
本書について
生成AIの時代だからこそ必要な「考える力」をアップデートしよう!
デロイトトーマツグループでロジカルシンキング研修講師も担当する気鋭の戦略コンサルタントが教える、相手も自分も腹落ちさせる、あらゆる業種で役に立つ、思考の「型」とは
ベストセラー『目的ドリブンの思考法』著者、待望の第2作!