従来のロジカルシンキングに潜む「コモディティ思考の罠」
デロイト トーマツ コンサルティングでシニアマネージャーを務める望月安迪氏は、本書にて新しいロジカルシンキングの手法である「シン・ロジカルシンキング」を提唱する。従来、ロジカルシンキングは「正しく、わかりやすく伝える」ことが重要視されてきた。なぜなら、この考えは仕事における再現性を担保するのに有効な手段だったからだ。しかし、望月氏はこの考えに対し、「再現性を担保する思考の『標準化』は、アウトプットの品質を『同質化』してしまう」と指摘する。つまり、これまでのロジカルシンキングには、「コモディティ思考の罠」が潜んでいるというのだ。
まず、ロジカルシンキングの基礎に「論証」がある。論証とは、自分が伝えたいことの正しさを根拠立てて相手に示すことだ。この時、ただ事実を淡々と述べるのでは相手に自分の正しさを伝えることはできない。大切なのは「知的生産」、つまり与えられたものから与えられていないものを導くことだ。情報の受け手がまだ知らない、かつ役立つ新情報を示すことにより情報に差別化が生まれ、意見に説得性を持たせることができる。
この論証を強固なものにするためには、「論理の縦軸」と「情理の横軸」が必要になると望月氏。なお、従来のロジカルシンキングでは、前者の論理は重視されていたが、後者の情理は無視されてきた。シン・ロジカルシンキングでは「他者配慮の情理」を重視することにより、エモロジカルな説得を行えるのだという。
この論証を踏まえたうえでの具体的なロジカルシンキングの方法として、「演繹的思考」と「帰納的思考」の2つが挙げられる。まず、演繹的思考とは、前提条件を論拠・判断基準として持ち、個別事象をそこに当てはめることで、意味合いを導き出す思考法だ。この思考法の強みは、手持ちの情報が持つポテンシャルを引き出し、最大限の有効活用ができるという点にある。しかし、同時に議論の出発点となる前提を形成できず、前提そのものが正しいかどうか判定できないという弱点がある。
この弱点を補えるのが、帰納的思考だ。帰納的思考とは、具体的な事象・事例を結論として一般化する方法を指す。つまり、個別のサンプルを観察収集することで一般性の高い結論を導くことができ、サンプルを集める中で誤りに気づける。この2つの思考法に共通する性質は、筋道を追って考えれば誰でも同じ結論にたどり着けること、つまりロジックの再現性があるという点だ。