
イオンは、グループ全体で3000億円を投じ、複雑に絡み合ったシステムやサイロ化されたデータの統合を進めている。約300の事業会社を抱え、その各企業が独自システムを持っているイオンにとって、これは大きな挑戦だった。データを統合すべく、新たな会員基盤アプリ「iAEON」を軸にIDを統合し、多様なデータソースからETLツールを用いてデータを集約することで、データ基盤を構築。さらに、Snowflakeを活用したデータ提供環境の整備によって、各事業部の要求に柔軟に応えられる体制づくりが進められている。9月12日から13日にかけて開催された「SNOWFLAKE WORLD TOUR TOKYO 2024」に登壇したイオン CTO 山﨑賢氏が取り組みの全貌を語った。
3000億円を投資したイオンのデータ統合戦略
イオンのIT環境をデータの観点から一言で表すと「緩やかな連帯の状態」だったという。こう表現すると耳障りは良いが、「システムの関係性はかなり複雑で、ぐちゃぐちゃでした」と話すのは、イオン CTO 山﨑賢氏だ。スマートフォンのアプリケーション一つをとっても、イオンのお買い物アプリ、イオンモールのアプリ、ミニストップのアプリなど、それぞれのアプリでログインIDが異なる。「顧客のUX観点では連携が取れておらず、使いづらい状態でした」と説明する。

イオングループは元々独自性を重んじるカルチャーをもっている。買収などによって事業を拡大しているが、イオングループに入ったからといっていきなり何かを変えさせたり強制したりせず、その企業が持つカルチャーや独自性を尊重することが特長の一つだ。
このような背景もあり、イオングループの各事業会社が提供するアプリケーションもそれぞれ独立して開発・運用されている。一人のユーザーが複数のアプリに登録する度に、それぞれのアプリケーションで新規ユーザーと認識されるような状況だった。また、アプリケーションごとに開発主体も異なるため、クーポンのデータや顧客の購買データなどもばらばらに管理されていたという。

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さらに、データを管理するシステム環境も異なっていた。オンプレミスを利用している部分もあれば、AWS、Google Cloudなどのクラウドを利用する部分も存在する。データベースはMySQLもPostgreSQLも用いているが、それぞれがまったく連携されていない。これが3、4年前までの状態だったと山﨑氏は振り返る。
こうした状況はアプリケーションだけに留まらない。店舗の経営・運営にはPOSや基幹系システム、財務会計システムなど、多様なシステムが必要となるが、買収などでイオングループ入りした企業は、傘下に入ってもなおそれぞれ既存のシステムを使い続けていた。そのため、グループ全体でシステム、プロトコル、フォーマットが統一されていなかったのだ。
さらに、各事業会社の独自性を重んじるが故に生じる問題はもう一つあった。同グループでは、同じ商圏内にダイエー、マルエツ、イオンなど、グループ内の競合店が複数存在する場合がある。このような状況で、たとえばイオンリテールがダイエーに顧客情報を公開すれば、顧客を奪われる可能性があると見なされることから、グループ全体で顧客管理を統一することが難しかったと山﨑氏は話す。
このようにデータがバラバラの状態では、グループ全体として顧客価値を最大化することはできない。そこでイオングループは、2021年にデータの統合に着手。2021年から3年間で3000億円を投じることを決定し、今も投資を進めていると山﨑氏。
まずは、膨大な顧客IDを統合できるような会員基盤が必要だとして、会員基盤アプリ「iAEON」を構築。これは、同グループが提供する決済機能やポイントプログラムを集約したアプリケーションとしての機能だけでなく、グループ内の多数の事業会社がもつ顧客IDを統合する役割も担うものだ。
iAEONは提供開始から3年で1000万ダウンロードを達成。まずはイオンのお買い物アプリのIDを統合し、順次他のアプリも統合を進めてきた。データ統合による横断的な分析には、IDの統合が不可欠となるからだ。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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