2024年10月29日、ガートナージャパン(以下、Gartner)は、2025年以降の戦略的展望のトップ10を発表した。
発表内容の詳細は以下のとおり。
〈1〉2027年までに、新しい従業員契約の70%に本人のペルソナのAI表現に関するライセンス条項と公正使用条項が含まれるようになる
大規模言語モデル(LLM)には終了日が設定されていないため、企業のLLMが収集した従業員の個人データは、雇用期間中だけでなく退職後もLLMの一部として残ることになるという。これに対し同社は、そうしたデジタルペルソナの所有権が従業員にあるのか、それとも雇用主にあるのかを問う議論が生じ、最終的には訴訟に発展する可能性があると述べる。
〈2〉2028年までに、テクノロジーへの没入がデジタル中毒や社会的孤立という形で人々に影響を与え、組織の70%がアンチデジタル・ポリシーを取り入れる
2028年までに、約10億人がデジタル中毒の影響を受け、それが生産性の低下、ストレスの増加、不安やうつ病などのメンタルヘルス疾患の急増につながると同社は予測している。加えて、デジタルへの没入はソーシャル・スキルにも悪影響を及ぼし、若年世代では特にそれが顕著になるとしている。
〈3〉2027年までに、医療機関の70%はテクノロジー契約に感情AI関連の利用規約を含める
医療機関は、患者データの収集などの作業に感情AIを活用することで、医療従事者の負担軽減に寄与するという。これに際し、業務負荷の増大にともなって生じる燃え尽き症候群やフラストレーションを軽減できるようになるとのことだ。
〈4〉2028年までに、大企業の40%は従業員の気分や行動を操作/測定するためにAIを導入する
AIは、職場でのやりとりやコミュニケーションについてセンチメント分析を行える。これによりフィードバックが提供され、動機と意欲のある労働力を得られるようになるとしている。
〈5〉2028年までに、S&P対象企業の30%は「xxGPT」といった生成AIのラベル付けを行い自社ブランディングを再構築する
CMO(最高マーケティング責任者)は、生成AIを新しいプロダクトとビジネスモデルの両方を立ち上げることができるツールと見なしているという。また、生成AI活用により、プロダクトの市場投入を速めることで新たな収益源を生み出すと同時に、より優れたカスタマー・エクスペリエンスを提供し、プロセスを自動化できるようになるとのことだ。生成AIを巡る競争が激化するにつれ、企業は自社の業界に合わせて調整した、固有のモデルを開発することで差別化を図りつつあるという。
〈6〉2028年までに、企業における情報侵害の25%は、外部の攻撃者や悪意ある内部関係者によるAIエージェントの悪用に起因するものになる
目に見えないアタックサーフェスが既に存在しているが、AIエージェントはそれを急増させるため、企業には新たなセキュリティリスクソリューションが必要になると同社は述べる。そのようなアタックサーフェスが増加することで、企業は、悪意ある活動を行うAIエージェントを作成する人物(知識のある外部の攻撃者や不満を持つ従業員)からビジネスを保護する必要に迫られることになるとのことだ。
〈7〉2028年までに、CIOの40%はAIエージェントのアクションの結果を自律的に追跡・監督・抑制する「守護エージェント」の利用を求めるようになる
新たなレベルのインテリジェンスが追加されるたびに、プロダクトリーダーの戦略計画では、新たな生成AIエージェントが登場し、拡大が加速するという。守護エージェントは、セキュリティ監視、可観測性、コンプライアンス保証、倫理、データフィルタリング、ログレビューをはじめとする、AIエージェントのメカニズムに関する数多くの概念に基づいて構築されているとのことだ。同社は、2025年末までに、複数のエージェントを搭載したプロダクトのリリース数が、より複雑なユースケースをともないながら増えていくだろうと予測した。
〈8〉2027年までに、Fortune 500企業は5000億ドル分のエネルギー経費をマイクログリッドへシフトし、慢性的なエネルギー・リスクとAIによる需要を緩和する
マイクログリッドは、エネルギー・システムで発電、蓄電、負荷をつなぐ独立した電力ネットワーク。特定の地域や施設のエネルギーニーズを満たすために、単独あるいはメイングリッドと連携して稼働できるという。
これにより、日常的なオペレーションに競争優位性が生まれ、将来のエネルギーリスクも軽減されると同社は述べる。運営支出(OPEX)の一部をエネルギーに費やしているFortune 500企業は、マイクログリッドへの投資を検討すべきだという。
〈9〉2026年末までに、組織の20%はAIを活用して組織構造をフラット化し、現在の中間管理職の半数以上を廃止する
AIを導入して人間の中間管理職を廃止する組織は、短期的には労働コストの削減という形で、長期的には福利厚生コストの節約という形で、メリットを得られるという。また、AIを導入すると、従業員のタスク、レポート作成、パフォーマンスモニタリングを自動化・スケジュール設定し、生産性の向上や管理範囲の拡大が可能になるとのことだ。
一方で、AIの導入は組織に課題ももたらすとしている。たとえば、「雇用に不安を感じる従業員が増える」「管理職が直属の部下の増加に過剰な負担を感じる」「残った従業員が変化を起こすことや、AI主導のやりとりを受け入れることに消極的になる」といったことなど。加えて、メンタリングや学習パスが途切れ、若手従業員が自身の成長の機会が減少するリスクもあるとのことだ。
〈10〉2029年までに、世界の取締役会の10%はAIガイドを使用し、経営判断に異を唱える
AIが生み出す知見は、経営幹部の意思決定に影響を及ぼすようになり、取締役会メンバーは経営幹部の意思決定に異を唱える力を得られるようになると同社は予測する。これにより、周囲が擁護できない意思決定も多々あるような「破天荒なCEO」の時代が終焉に向かうとのことだ。
【関連記事】
・AI時代の情報漏えいリスク対策に不可欠な「6つの要素」【Gartner発表】
・CEOがIT部門に抱くであろう不満1位は「IT活用の積極的な提案の少なさ」──Gartner調査
・Gartner、2024年版セキュリティハイプ・サイクル発表 新たにリスクマネジメントAIの項目追加