調達につづき、人事領域にも「ServiceNow」を導入
調達改革の途中、山本氏のチームが気づいたサプライヤーとのコラボレーション機会は多岐にわたる。たとえば、サステナブル調達の文脈では「ESGのアンケート回答に協力してほしい」という依頼への対応がそうだ。他にも、サプライヤーマネジメントの文脈では、社内の関係部門との情報共有ニーズへの対応、サプライチェーンセキュリティの文脈では、条件を満たしたサプライヤーのみ取引を行いたいというニーズへの対応、新規サプライヤーとの取引開始時のオンボーディングニーズへの対応まで考慮すると、さまざまな機会が考えられる。こうした要望にすべて対応できる環境が整うことで、あるべき姿での「サプライヤーとの取引」が初めて実現できるとNRIは考えた。
元々、ServiceNowは、社内ポータルやワークフローなどのグループウェア機能を強みとすることで知られる。ServiceNowの機能を使いこなすことができれば、調達業務の効率化にとどまらない高度化も実現できる点も期待していたという。
実際にServiceNow導入後は、その通りの成果をあげている。山本氏が調達部門に業務がどう変わったかを尋ねたところ、以前と比べて「新規のサプライヤーと取引するまでの期間が半減した」「サプライヤーからの問い合わせ対応時間が半減した」など、一定の成果が得られたとの回答があったという。さらに、ポータル上でサプライヤー情報を公開したことで、“自己解決が促される”ことによる成果もあったと山本氏は評価した。
この成功を受けて、NRIが調達業務の次に選んだ領域が人事における「社内ポータルの刷新」だ。
山本氏は「日本はこれから深刻な“人手不足”社会に直面する。私自身は第二次ベビーブーム世代で、同世代の人口が約200万人いるが、2000年生まれの世代になると約120万人に減る。過去25年間で、約6割の新卒市場の縮小を経験したことになる。2022年の出生人口は80万人程度でこれからも新卒市場の縮小は続く。少子高齢化だけが脅威ではない。終身雇用や年功序列が過去のものとなり、新卒市場に代わって中途採用市場が拡大してきた。既に国内の採用市場における中途入社の比率は43%ほどに達している」と、人事を取り巻く環境の変化について説明する。
こうした近年の雇用環境の変化を踏まえ、NRIでは中途人材の直接採用を強化している。とはいえ、入社時期がバラバラになる分、新卒一括採用と比べると採用からオンボーディングまでの業務負荷がどうしても増えてしまう。企業理念や行動基準の理解を深めてもらいたくとも、その浸透には時間がかかる。採用した人材の早期戦力化は大きな課題だ。
加えて、「職者を増やさない」ことの重要性も増している。現場のマネージャーは、定期的なコミュニケーションを通じて部下のキャリアプランを理解し、サポートしなくてはならないが、そのための時間的余裕はない。これは多くの企業で共通する悩みだろう。NRIの場合は、ServiceNowを活用して社内ポータルを刷新することで、これらの問題に対処することを選んだ。
「オンボーディングサポート」「手続きの簡素化」でServiceNowが活躍
NRIが社内ポータルの基本構想として掲げるコンセプトは、「グローバルに開かれ、グループ全体に一体感をもたらすポータル」だという。具体的には、社員個人が行うべき手続きをできるだけ早く終わらせられる環境、経営から発信するメッセージの理解と浸透を促すための環境、成長のための環境を提供することを目指している。
実際の好例がオンボーディングサポートだ。たとえば、ある人物の入社が決まったとき、入社時に必要な事務手続きやデジタル機器の初期設定など、入社前に済ませておいた方がよい手続きは多い。このときServiceNowなら正式な社員でない段階でも、ワークフロー上で入社する本人、上司、人事、その他の関係部門にタスクを割り振ることが可能だ。さらに、ポータルでは、NRIの社史、NRI標準フレームワークの案内など、入社を予定している人たちができるだけ早く現場で活躍できるようにサポートするためのコンテンツも提供している。
そして、このようなサポートを提供するタイミングは、入社時に限らない。結婚や子供の誕生のようなライフイベント、違う部署への異動・昇進、新しいプロジェクトへの配置……社員にとって節目となるイベントは他にも多くあるだろう。たとえば、プロジェクトマネージャーに初めて指名されとき、どのようなコンテンツが必要になるだろうか。
こうした問いに対して、NRIでは入社時以外のユースケースを探索中であり、山本氏は「社員に変化が起きるタイミングにあわせて専用のワークフローを起動し、必要な情報を学んでもらいたい」と語る。ユースケースが充実すれば、中途採用者の早期戦力化だけでなく、社員個人の成長につながるサポートも実現できそうだ。
加えて、社内ポータルに関連して、社内手続きの簡素化にも取り組んでいると山本氏。これまでNRIでは、対応が必要なタスクが発生したとき、主管部門から各事業本部、マネージャー、一般社員へと“伝言ゲーム”方式でタスクを依頼するフローをとっていた。とはいえ、中間管理職にとって手間もかかるため、主管部門からタスクを実行する社員に直接タスクを割り当てるようにワークフローを変更。これにより、マネージャーは自分の部下がそのタスクを期限通りに実行しているかをモニタリングするだけで済むようになった。こうした社内手続きの簡素化は、タスクの対応漏れをなくしつつ、中間管理職の負担軽減にもつながる。