新PROACTIVE戦略:「AIセントリックなERP」とは?
次に登壇したSCSK PROACTIVE製品責任者の志村尊氏は、SCSKの新たなオファリングサービスの中核として、AIを中核に据えたアプローチを語った。
「革新的技術には3つの共通点があります。利便性の向上、コスト効率の改善、そしてスケーラビリティです」と志村氏は語る。スマートフォンやクラウドコンピューティングの普及過程を分析し、AIの普及もこれらと同様のパターンを辿ると予測する。
デジタルオファリングサービス「PROACTIVE」の中核となるのが「PROACTIVE AI」だ。「経営者に一歩先ゆく示唆を提供し、より高度な経営判断を実現、また、業務の効率化・自動化を実現するアクショナブルAI」として位置づけられる。特徴的なのは、マルチAIエージェントによる多角的な分析アプローチだ。「一方的な見方ではなく、複数のAIエージェントによる多面的な分析を提供します」と志村氏は説明する。
具体例として、経費精算プロセスの革新を挙げ、「従来10分かかっていた申請処理が3分程度で完了する」という具体的な成果を示す。Microsoft Teamsとの連携やAI OCRの活用により、直感的な操作性も実現している。
PROACTIVEは財務データ、非財務データ、外部データを統合的に活用。「財務分析の高度化、アジリティの向上、販売戦略のダイナミックな適応など、リアルタイムでの意思決定支援を実現します」と志村氏は説明する。
基盤となるatWILLプラットフォームは、ローコード・ノーコード開発とマルチモーダル対応を特徴とする。「エコシステムを構築しやすく、多様なデバイスや入力方式に対応可能」と志村氏は強調する。
「革新的技術の台頭は、必ず既存のものを置き換えていきます」と志村氏は指摘する。スマートフォンがポケベルを、クラウドがオンプレミスシステムを置き換えたように、AIセントリックなERPは従来型のERPに置き換わる可能性を示唆している。
住友商事フィナンシャルマネジメントの次世代シェアードサービス
キーノートの最後には、住友商事グループの財務経理業務を一手に担う住友商事フィナンシャルマネジメント(SFM)代表取締役常務の西原佳大氏が登壇。884社の連結決算と48社の経理業務を400名体制で運営する同社が、ERPシステムを活用した効率的な業務集約化の実態を明らかにした。
「1980年代から始まったシェアードサービスの取り組みは、2001年に財務・経理のサービスを統合し、現在の体制へと進化しました」と、西原氏は説明する。会計基準の変更やデジタル化など、時代の変化に先駆的に対応してきた実績を持つ。
特筆すべきは、48社の受託会社に対してPROACTIVEとSAPの2種類のERPに絞った運用だ。「シェアードサービスの効率的な運営には、システムの選択と集約が重要です」と西原氏は強調する。
業務規模と実績については、「年間13万件の支払処理、884社の月次連結決算を行っています」と西原氏。2020年のコロナ禍前にペーパーレス化とフルリモート対応を実現し、業務の継続性も確保している。
シェアードサービスの対象選定について、「製造業の大規模企業は対象外としています。製造業のように、経理業務が経営の要となる企業には、むしろ内製化を推奨しています」と西原氏は説明する。トレード会社、軽量な事業会社、持株会社など、適性のある企業を選別して受託している。
では、こうした取り組みにより、SFMが目指すシェアードサービスの価値とは何か?
「コスト削減も重要ですが、最優先は経理機能の品質とガバナンスの担保です」と西原氏は語る。経理プロセスの集中化により、標準化・効率化の実現、人材の柔軟な配置、法制度対応の一元化などの価値を提供している。
今後の展望として「グループの健全な発展と経営の質の向上に貢献していきたい」と西原氏。システムと経理の専門性を集約することで、各社の状況に応じた最適なサービス提供を目指しているという。
SCSKの新たなデジタルオファリング事業、LIXILの「システムを作らない」アプローチ、そして住友商事フィナンシャルマネジメントの業務集約化の取り組みは、日本企業のデジタル変革における新たなモデルケースとして、その成果が期待される。