デジタルオファリングサービスとは何か?
基調講演では、SCSK取締役執行役員専務の尾﨑務氏が登壇。「2035年までに労働人口が約1,000万人減少する見通しの中、現在の働き方を維持することは不可能です」と尾﨑氏は危機感を示す。約8,000社のクライアントを持つSCSKは、この深刻な人材不足に対し、デジタル技術による抜本的な解決策を提示する。
SCSKが打ち出した解決策の核となるのが、「デジタルオファリングサービス」だ。これは先進デジタル技術と同社の豊富な業務ノウハウ、さらには有力パートナーとのアライアンスを組み合わせた包括的なソリューションだという。「アマゾン・ウェブ・サービス、グーグル・クラウド・ジャパン、日本マイクロソフトなどのテクノロジーパートナーとの連携により、即時に業務で活用できるサービスを提供します」と尾﨑氏は説明する。
その切り札となるのが、経営や業務の課題解決を支援するデジタルオファリングサービス「PROACTIVE」である。 SCSKは従来、自社ERPの製品名としてこのブランドを展開してきたが、今回、新たな製品群を含め統合する形でリブランディングした。このサービスは業務特化型と業界特化型の二つのアプローチを採用し、各企業が解決する固有の課題に対応する仕組みを備えている。会計、人事、販売、生産などの業務特化型のソリューションに加え、建設業、卸売業、製造業などの業界特化型のソリューションも用意されており、幅広いニーズに応えることを目指す。
中核となる「PROACTIVE AI」は、業務データを多角的に分析し、経営の高度化を支援するとともに、業務の効率化および自動化まで幅広く支援する。「従業員の皆様がよりクリエイティブな領域に集中できる環境を整えることで、企業全体の成長を支援したい」と尾﨑氏は展望を語った。
LIXILの基幹システム改革と「Fit to Standard」の実践
次に、LIXIL常務役員デジタル部門担当の岩﨑磨氏が自社のシステム改革の実例を紹介した。「LIXILは現在、厳しい経営環境に置かれている」と前置きしながらも、業界を代表する住宅設備・建材機器メーカーのLIXILが、メインフレーム依存からの脱却と基幹システムの革新に挑んでいる様子を具体的に語った。全従業員のデジタル人材化という野心的な取り組みを通じて、激変する外部環境への対応力を強化している。その取り組みは高く評価され、経済産業省、東京証券取引所、情報処理推進機構が実施する「DX銘柄」において「DXグランプリ企業2024」に選定されている。
LIXILを取り巻くERP環境は、国内でも複数の会社が合併したという理由から、メインフレームがまだ稼働している状況だ。「3基のメインフレームで国内事業を運営していますが、維持・運用の持続可能性に課題を抱えています」と岩﨑氏は語る。2000を超えるシステムを抱え、新規住宅着工数の減少や世界情勢の変化による原材料高騰など、外部環境の激変にも直面している。
こうした中でLIXILが打ち出した解決策の特徴は、「システムを作らない」という逆説的なアプローチだ。「業務をシステムに合わせる"Fit to Standard"の考え方を徹底し、カスタマイズを最小限に抑えることで、持続可能な基盤を目指しています」と岩﨑氏は説明する。具体的な取り組みは以下の5段階の変革プロセスで進められている。
1. マスターデータの整備(GMDG)
2. 業務プロセスの標準化(GPT)
3. システムの標準化(Fit to Standard)
4. データプラットフォームの構築(LDP)
5. AI・分析基盤の活用
こうした中で力点を置くのが、全従業員のデジタル人材化を目指す「デジタルの民主化」だ。「現在9,152名の社員がノーコードを開発可能で、3,528のアプリケーションが本番稼働しています」(2024年11月現在)と岩﨑氏は具体的な成果を示す。
さらに、岩﨑氏は生成AIへの取り組み姿勢を語った。「データを貯めるだけでは価値は生まれません。生成AIは革命的な変化をもたらす可能性があります」と岩﨑氏は指摘する。蓄積されたデータと生成AI技術を組み合わせることで、業務効率化と意思決定の高度化を目指している。
「世界規模での競争に勝ち残るため、標準化されたシステム基盤の構築と、全従業員のデジタル人材化を加速させていきます」と岩﨑氏は締めくくった。DXグランプリ2024受賞企業でもあるLIXILの取り組みは、日本企業のDX推進におけるモデルケースとなりうる。