生体認証および画像認識サービスを手がけるELEMENTSは、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の子会社であるポラリファイの株式を取得し、連結子会社化すると発表した。これにより、ELEMENTSの完全子会社であるLiquidとの連携が強化され、オンライン本人確認(eKYC)分野でのシナジー効果が期待されている。
ELEMENTS代表取締役社長の長谷川敬起氏は、今回の経営統合について「Liquidとポラリファイは、ともにeKYC領域におけるリーディングカンパニー、お互い切磋琢磨してきた関係だ」と述べる。両社を合わせた累計契約社数は550社に達し、累計本人確認件数は約1.2億件にも上るという。さらに、グループ全体の売上規模は約40億円(ELEMENTS::25億円、ポラリファイ:15億円)に拡大する見通しだ。
長谷川氏は、「PMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)を今後1年半程度かけて実施し、収益改善を図る。2年後には年間7.5億~10億規模の収益改善を見込んでいる」と語った。この統合によって、新技術やサービス開発への投資余力が生まれることも期待されている。
具体的な強化サービスとして挙げられたのは、ICチップを活用したKYC(Know Your Customer:顧客確認)ソリューションや、不正検知・認証技術だ。例えばELEMENTSが特許出願中のLIQUID eKYC「ICおまかせパック」は、マイナンバーカードや運転免許証などに搭載されたICチップを活用して本人確認を行うものである。このソリューションではユーザー環境に応じた最適な認証方式を提供し、高い利便性と低い離脱率を実現している。またiOS環境では専用アプリだけでなくブラウザからもIC読み取りが可能で、公的個人認証(JPKI)にも対応している点が特徴だ。
さらにネット銀行などで発生している不正取引対策として、「LIQUID Auth」という仕組みも導入されている。このサービスでは、eKYC完了時に登録された顔情報と取引時に撮影された顔情報を照合することで、不正利用リスクを大幅に低減する仕組みだ。「パスキーなどで本人確認自体は成功していても、その後の電話番号紐付けプロセスで不正が発生するケースがありその課題を解決するもの」と長谷川氏。不正な電話番号紐付けによる口座悪用やマネーロンダリングなどへの対策として、この再認証プロセスが有効であることを強調した。
ポラリファイ代表取締役の和田友宏氏は、自社設立からこれまでの歩みについて振り返りつつ、今回の経営統合についてコメントした。同社は2017年にSMBCグループ傘下で設立され、生体認証技術を活用したサービス提供を開始。2018年には犯罪収益移転防止法(犯収法)の改正によってオンライン本人確認(eKYC)が可能となり、多くの事業者から採用されてきたという。「私たちポラリファイは、不正利用やなりすまし防止という観点から業界内外で評価されています」と和田氏。
また今回のELEMENTSグループへの参画について、「法改正やパスキーなど新たな認証技術が進展する中、この経営統合こそ最適解だと考えた」と述べた。
SMBCグループ デジタル戦略部長 松永圭司氏も今回の経営統合についてコメントし、「両社統合によって、不正対策を含む総合的な認証ソリューション提供が可能になる」とその意義を説明した。また松永氏によれば、この取り組みは国内市場だけでなく海外展開にもつながる可能性があるという。「日本国内ではもちろんですが、海外市場でもこのような高度な本人確認ソリューションへの需要は高まっている」と語り、新興国市場や金融インフラ整備途上地域への進出可能性を語った。