SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

Security Online Day 2025 春の陣

2025年3月18日(火)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2024年秋号(EnterpriseZine Press 2024 Autumn)特集「生成AI時代に考える“真のDX人材育成”──『スキル策定』『実践』2つの観点で紐解く」

EnterpriseZine Press

第2次トランプ政権で米AI規制はどう変わる? 各国動向と日本企業への影響は?

 国際大学GLOCOMは、2025年1月17日、弁護士の三部裕幸氏を迎え、「世界のAI法制度動向と、AIに関わる日本企業のリスク対策」と題したオンラインセミナーを開催した。世界各国でAI規制のハードロー化が進む中、日本はソフトロー偏重の独自路線を歩んでいる。EUのAI法が2025年から段階的に施行され、米国では第2次トランプ政権下でのAI規制見直しの可能性が浮上する中、州単位での法整備も進展している状況下で、日本企業に求められるリスク対応と今後の展望が解説された。

AI法規制をめぐる世界と日本の違い

 AI法規制をめぐる主要各国の動向から明らかなのは、日本が他国と異なる方向を指向していることにある。EUや英国はもとより、米国、カナダ、韓国、シンガポール、さらには共産主義政権の中国までもがハードロー中心であるのに対し、日本はソフトロー偏重の傾向にあると三部裕幸氏は指摘した。

主要各国のAI法規制動向 出典:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 [画像クリックで拡大]

 ここでのハードローとは、法的拘束力のあるものを指し、法あるいは法に基づく政令や命令が該当する。一方のソフトローは法的拘束力のないものである。官庁が示すガイドラインのうち「○○することを推奨する」のように、強制力のない表現が中心のものは、ソフトローに該当する。業界ルールのように強制力のないものもソフトローである。日本の場合、AIに関しては、規制を極力かけないことを出発点とし、自由な開発と活用を奨励していることから、ソフトローを指向していることになる。

 そもそも法律を作るきっかけは、リスクを感じ、規制の必要性を認識した時だ。たとえば、道路交通法は、人間が車にはねられるリスク、車の追突で器物を壊されるリスクなどを認識して整備されたものになる。道路交通法に限らず、法律を必要ないものと考える人はいないし、法律がビジネスを阻害していると考える人もいない。実際、前述のハードローを指向する国々では順次AI開発と活用に伴うリスクの洗い出しから始め、現行法に当てはめての評価、現行法の改訂あるいは新法制定へと活動を進めてきた。この動きは早く、特に米国やEUでは遅くとも2019年からAIに関わるハードローの検討が始められた。

 中国はさておき、他の民主主義の国々のAI政策を見れば、法律がAI開発や活用を阻害しないことは明らかである。ところが、「AI法制度の議論になると、なぜか日本だけ諸外国と異なる方向に向かおうとする。この姿勢は今後に禍根を残すことになりかねない」と、三部氏は懸念を示した。何よりソフトロー指向には大きな問題がある。それは、悪意を持つ外国人や外国企業が日本市場でビジネスを行う場合に、その問題行動を規制する法律がないことだ。他国の法が禁止していることでも、日本の現行法で規制していないのであれば、問題行動が許容されてしまう。「このまま独自路線を歩み続けることは、日本のためにはならない」というのが三部氏の問題意識である。

EUのAI法、要注意の段階的施行

 諸外国の制度はどうなっているのか。まずEUのAI法から見ていきたい。EUと言えば、「人権重視の姿勢がAIビジネスに足枷を嵌めようとしている」「規制は米国ビッグテックを市場から締め出すことを目的としている」などの声を聞くところだ。しかし、EUの実際の狙いはもっと現実的だ。英国が離脱したとはいえ、現加盟国は27カ国。国ごとに法律が異なるようでは、域内でのビジネス活動がやりにくい。そこで、域内を単一市場と捉え、その中でのビジネスを効率的に行うための制度を整備しようと考えた。また、ナチスドイツが国勢調査のために導入したパンチカードシステムのデータが、ユダヤ人などの差別や迫害に使われたことへの反省から、AIリスクを分析し、制度に反映しようと考えた歴史的事情もある。

 AI法の整備にあたっては、リスクに応じて規制内容を変えるリスクベースアプローチをEUは採用した。これは「許容できないリスク」「ハイリスク」「限定リスク」「最小リスク」の4つにリスクを分類し、それぞれ「禁止」「ハードローでの規制」「説明義務のみ」「規制なし」で対応するもの。許容できないリスクのあるAIとは、端的に言えばEUの価値観に反するAI(8類型)で、図2に示したようなものが当てはまる。また、ハイリスクAIは、安全に関わるAIや、差別、偏見、迫害などに繋がりやすいAIを対象としている。

EUのAI法の概要 出典:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 [画像クリックで拡大]

 このうち、ハイリスクのAIでは、「1. リスク管理システム」「2. データおよびデータガバナンス」「3. 技術文書」「4. 記録保持」「5. 透明性および情報提供」「6. 人間による監視」「7. 正確性、頑健性およびサイバーセキュリティ」の要求事項を定めてもいる。これらはAIビジネスでなくても遵守すべきことで、人間が従来のビジネスでやってきたことをAIビジネスに当てはめたものばかりだ。

EUのAI法が定めるハイリスクAIへの要求事項 出典:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 [画像クリックで拡大]

 EUとのビジネスで留意するべきポイントとして三部氏は3つを挙げた。1つ目が、基本権の影響評価やAIリテラシーの確保のように、前述した以外でも課される義務があることだ。2つ目は、施行時期が段階的であることだ。2025年2月から「許容されないAIの禁止」「AIリテラシー教育の義務」、2025年8月から「汎用AIモデル提供者の義務」など、2026年8月から「ハイリスクAIの義務(安全に関わるものを除く)」、2027年8月から「安全に関わるハイリスクAIの義務」が施行開始になる。3つ目は、違反した場合の制裁金が巨額なだけでなく、リコールあるいは市場からの締め出し、さらにはそもそも日本から輸出できない、という不利益があることだ。後手に回ると、既存のビジネスが成り立たなくなる可能性も見えてきた。

次のページ
第2次トランプ政権発足、どうなる?バイデン政権時代の大統領令

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
EnterpriseZine Press連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/21332 2025/02/17 08:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング