順天堂大学と日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)の入院患者に対し、退院後の最適な病院やケアセンターなどの医療機関への転院を支援する「Patient Flow Management(PFM)AIマッチングシステム」の構築および運用に向けた取り組みを開始した。
PFM AIマッチングシステムは、IBMのクラウド上にセキュアに格納されている電子カルテのバックアップ・データとの連携および生成AIの活用を可能とし、効率的に患者一人ひとりに最適な転院先医療機関を検索・提示するシステム。これにより、入院患者の住所や病名など個人的な情報をもとに、入院患者が自分らしい暮らしを続けられる医療機関へ転院できる仕組みを構築するという。
順天堂医院で副院長を務める山路健氏は、「日本は超高齢化社会を迎える中、それに耐えうる体制構築が求められている。そのモデルとして、医療機関の機能に応じた役割分担と、他の機能を有する医療機関との連携を強化する『地域包括ケアシステム』が提唱されている」と取り組みの背景を説明する。加えて、入院前から患者の基本情報を集め、入院中にさらに詳細なアセスメントを加えることで、適切な時期に適切な環境への退院に向けた問題解決に早期に取り組む仕組みである「PFM」の重要性が高まっていることを指摘した。
順天堂医院では年間約3万人の患者が退院しており、そのうち自宅へ退院するものの、在宅支援診療所などのサポート(以下、在宅調整)が必要となる患者が約3%(900人)、他の医療機関へ転院(以下、転院調整)が必要な患者が約2%(600人)存在するという。
こうした在宅調整や退院調整を要する退院支援の流れとして、山路氏は下図を提示。まずは、入院前に患者情報を収集し、退院後に支援が必要かについてアセスメントを行う。この情報をもとに、入院前あるいは入院直後から退院支援チームが担当医師、病棟のナースと連携し、問題解決に取り組む。こうして、退院後に患者が最適な環境で生活を送れるよう支援する仕組みを整えているという。
このような退院支援を行うにあたって、山路氏は以下3つの課題を挙げる。
- 情報収集作業の煩雑化:転院先、退院先における患者の受け入れ可否を電話で確認し、自身でも情報を調べつつ電子カルテに手入力していくため、作業が煩雑化している
- システム連携不足:システムが連携していないため、電子カルテと施設検索などに用いるインターネットにつながる端末の2台必要
- データ不足:過去に候補となった医療機関や、最終的に転院先となった医療機関の情報など、一連のプロセスに関するデータを蓄積・活用する仕組みがない
これらの課題を解決できるのがPFM AI マッチングシステムだと山路氏。患者IDを入力すると、患者のマスタ情報をもとに自宅から近い順で医療機関を検索できる。また同システムには生成AI製品ポートフォリオ「Watsonx」と連携しており、AIチャットで質問も可能だとした。
日本IBM 執行役員 金子達哉氏は、同システムの目指す姿について「医療従事者、患者、国の3者にとってメリットのある仕組みを構築すること」だと説明し、下図を提示。
最後に金子氏は、今後の展開として以下3点を述べた。
- 適応範囲の拡大:地域医師会や介護業界とも連携し、登録する施設を拡大することで、自宅への退院患者(在宅調整含む)への適応を実現する
- デジタルによる医療連携の加速化:医療施設、介護・リハビリテーション施設と形成するヘルスケア・プラットフォーム上で診療履歴などのサマリー情報がデジタルで共有されることで医療連携を加速。字労働人口不足解消にも貢献する
- 将来的な社会保障費の削減:人力作業をテクノロジーが担うタスクシフト、医療機関の機能に応じた適材適所によって実現される