LT前半:グローバル化する情シスの課題/サイバーセキュリティ組織の新設
基調講演のあとは、情報システム領域で活躍する女性リーダー5名によるライトニングトークス(LT)が開催された。様々な企業や領域で活躍する女性リーダーの奮闘とは。前編では、HENNGE People Division, Deputy Division Manager People Division - Internal IT Section, Section Manager 川竹茜氏、ヤマハ発動機 サイバーセキュリティ推進部 サイバーセキュリティ戦略グループ グループリーダー 蔦木加代子氏のLTを紹介する。
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HENNGE:マインドセット変革にも食い込んでいく
トップバッターは、クラウドセキュリティサービス「HENNGE One」を提供するHENNGEの社内情シスを牽引する川竹氏。同社は「テクノロジーの解放」をビジョンに掲げ、顧客に使いやすい形でテクノロジーを提供することを目指している。社名の「HENNGE」には、世界を変えるために自らが変化するという意味が込められている。川竹氏は、自社が直面する課題と、その解決に向けた取り組みを語った。
情シスチームは6人と小規模ながら、半数が外国籍という構成という。チームが直面する最大の課題は、クラウドサービスの活用と安全性の両立である。2019年の上場を機に、ビジネス加速の要請が高まる中、多数のクラウドサービスを安全かつ効率的に運用することが求められている。具体的には、各サービスのデータ管理方法や、従業員による利用規約の順守、生産性の確保などに力を入れている。
もう一つの課題は、2013年から実施している英語の社内公用語化だ。社員の4人に1人が外国籍で、特にエンジニアの採用では日本語能力を問わない方針を取っている。しかし実際のところ、社員の英語力には差があり、重要なところは日英併記、細かい内容は「日本語でいいですか?」となる場面も少なくなく、最終的には多様な人材の活躍の場が限られてしまうのではという懸念もあるという。AIによる翻訳支援も検討しているものの、主語を抜かすなど日本語特有のハイコンテクストなコミュニケーションが元になっているため、完全な解決には至っていないと明かす。
課題先進企業を地で行くようなHENNGEだが、自ら変化することで掴んだノウハウは、いつか大きな顧客価値につながっていくはず。川竹氏は、「情シス部門として実験的な取り組みをリードするのはもちろん、社内のマインドセットの変革にも食い込んでいきたい」と力を込めた。

People Division - Internal IT Section, Section Manager 川竹茜氏
ヤマハ発動機:2025年からサイバーセキュリティ推進部が新設
続いて登壇したのは、ヤマハ発動機のサイバーセキュリティ戦略グループリーダーの蔦木氏だ。180以上の国と地域で事業を展開し、海外売上比率が94%に達する同社では、2025年1月からIT本部内にサイバーセキュリティ推進部を新設。工場セキュリティとプロダクトセキュリティを含む包括的な体制を整備している。
1997年に新卒入社後、IT部門に配属された蔦木氏。同社の社会人女子サッカーチームでも活躍するなど異色の経歴の持ち主だ。30代でのヨーロッパでの短期トレーニング経験や、Office 365のグローバル展開プロジェクトなどを通じて、チームワークの重要性やリーダーシップを学んできた。
転機となったのは、2023年のフィリピン子会社でのランサムウェア被害。古いVPN装置の放置や復旧時の対応など、様々な課題が浮き彫りになった。「ITリスクアセスメントではA評価だったのに、なぜこうなったのか」と、リスク評価の実効性にも疑問を投げかける。
今後は、BCP強化、人材育成、生成AI活用における攻めと守りのバランスなど、新たな課題にも取り組む。グローバル共通のポリシーと各地域の個別対応の両立、スキル定義の標準化など、具体的な施策も進行中だ。
「持続可能で成長できるサイバーセキュリティ組織を目指したい」と蔦木氏。女性管理職比率が単体で数%という同社において、セキュリティ分野を牽引する存在として、その手腕が注目される。

ヤマハ発動機株式会社
サイバーセキュリティ推進部 サイバーセキュリティ戦略グループ グループリーダー 蔦木加代子氏