日本テレビHD:利益創出を目標に“自社AIエージェント”を開発
辻理奈(以下、辻):私は日本テレビで、DX推進局でのAIプロジェクト「FACTly-Mate」の立ち上げを経て、今は経営戦略部門でテクノロジー戦略を担当しています。
2年前に立ち上げた「FACTly-Mate」では、生成AIのロイヤルユーザーを段階的に育成していくイメージで、「試す」「活用する」「業務に組み込む」の3段階で進めました。まず、プロジェクトのアイコンとなる「Mateくん」というゆるキャラを作りました。実は「正しく答えられなくても許される」というのが、Mateくんの裏テーマです(笑)
第1段階では、要約や校閲など様々な業務で使える「Mate Chat」を実装。第2段階は未完成ですが、Google ドライブ上の自分の業務文書を活用できる「Mate Search」を構想。そして先に第3段階に着手し、ユーザーが意識しなくても自然に使える形で生成AIを業務システムに組み込む「Mate Core」を進めています。

このMate Coreは、最近注目されているAIエージェントの考え方に近いものです。多くの企業が「業務効率化のためのAI活用」を進める中、私たちは「生成AIによる事業利益の創出」を目標に掲げたプロジェクトとして取り組んできました。
具体的な成果を上げているのが、「TVer」などの動画配信サービスに実装した生成AIを活用したコンテクスチュアル広告です。コンテクスチュアル広告とは、ユーザーが閲覧しているコンテンツの内容や文脈に合わせて親和性の高い広告を配信する仕組みのこと。たとえば、番組内でタレントが「エッフェル塔が最高でした」などと発言したら、そのCM枠でパリ旅行の広告を表示する。AIが番組内容を自動認識し、最適な広告をリアルタイムで選定してくれるのです。
今後は、より魅力的なコンテンツ制作と収益化の両立を見据え、こうしたAIエージェントの考え方を、コンテンツ作りに関わるすべての業務に活かしていきたいと思っています。
悩ましいKPI設定……Excel級の“日常使いのツール”として考えて
酒井:ここからは、会場の皆さんからの質問に答えていきたいと思います。
──AIの活用について、ビジネス効果を要求されると思いますが、どのようなKPIを設定して評価していますか?
朝比奈:ビジネス効果(ROI)ですが、数値よりも「社員がどれだけ効果を得られているか」という観点で見ています。つまり、仕事を効率化し、本当に取り組みたい付加価値の高い仕事に時間を使えること自体がビジネス効果なんです。だって、今さらExcelを活用して「いくら儲かるの?」なんて議論しませんよね。社員の生産性向上ツールとしては、それでいいんじゃないでしょうか。
もちろん数値の計測はしていて、実際に社内版GPTだけで年間20,000時間、Microsoft Copilotで年間35,000時間の削減効果なども報告していますが、議論すべき点はもうそこではありません! 使用金額が想定をすごく超えてしまうとか、そういった事態にならない限り、それ以上のROIの議論をしなくても経営メンバーに理解してもらえるように話しています。

──生成AIに会議の要約をさせたいのですが、まったく役に立ちません。会議の仕方自体を変える必要があるのではと感じ始めています。
櫻井:まさにその通りです。AIは入力の質に応じた出力しかできません。「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れても、ゴミしか得られない)」の言葉の通り、人間側の準備が不十分だとAIも力を発揮できないんです。
会議の場合、事前アジェンダの作成と共有、進行役の決定、結論の明確化など基本に立ち返ることが重要です。会議自体の質が上がれば、AIの出力も自然と良くなります。会議の進め方のテンプレートや時間配分の指針を示すなど工夫をしてみてください。AIは魔法ではありません。結局は、使う側のリテラシーが一番重要なんです。