2026年には「企業エージェント」が実用段階に
砂金氏はまず、AIエージェントの特徴を3つに整理した。第一に、自律的な判断・行動ができること。従来のルールベースのシステムとは異なり、状況に応じた判断が可能な点が重要だと強調した。第二に、タスク管理能力。SF映画に登場するデジタル執事のように、大きな指示を分解し、ディープリサーチなどの技術を駆使して、それぞれのタスクを高い解像度で解決できることが求められる。第三に、継続的な学習と改善が行われること。「最初は優秀に機能するが、使っていくうちに精度が下がったり最新情報にキャッチアップできなくなったりする課題があります」とし、人間のノウハウを取り込みながら継続的に性能改善する仕組みが不可欠だと説明する。
AIエージェント発展の時系列を説明するにあたっては、独自のロードマップを提示。2025年から2026年にかけて「企業エージェント」が実用段階に入り、2027年頃には「パーソナルエージェント」が普及すると予測する。パーソナルエージェントは、ユーザーのスマートフォン内や日常生活でのあらゆる出来事をデータとして活用し、「自分以上に自分のことを知ってくれている存在」になることを示した。

砂金氏はロードマップを踏まえ、「エンドユーザー側がエージェントで武装している状態で、企業側が人間だけで従来のコールセンターや店頭対応をしているのはアンバランスです。パーソナルエージェントが普及する前に、企業エージェントを実用段階に乗せる必要があります」と指摘する。そのためには、今すぐ企業内の多様なチャネル(店頭、EC、コールセンターなど)のデータを統合し、「AIの学習のために使えそうなデータがどこに存在しているかを紐解いておく」ことが急務だと指摘する。
また、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が提唱する「8段階の発展」についても言及。「効率化の上に感情のレイヤー」を持つASI(人間よりも数万倍知能が高い超知性)が登場し、人間の幸せをサポートする存在になると予測した。このビジョンの実現に向けて、企業は段階的にAI活用を進めるべきだという。

実践的なAIエージェント導入のステップとは
では、実際に企業でAIエージェントを取り入れる際にはどのような段階を経て対応する必要があるのだろうか。砂金氏はこれについて、自動運転と同様のレベル分けによる段階的アプローチを提案した。最初に踏むべきステップは「生産性の向上」。ここではRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)がカギとなる。「RAGを行うにあたっては、外部データベースから検索をして、その検索結果をもとに回答内容を生成するという2段階の作業が必要になります」と砂金氏。この段階でデータの整備を進めることが、次のステップへの布石となる。
次の段階では「自動化」に移行する。ここでは、何でもできる巨大なAIエージェントを作るのではなく、ドメイン特化型のエージェントを複数組み合わせることがポイントだという。変更手続きや本人確認など1つのタスクだけしかできないエージェント、トラブルシューティングが得意なエージェントなど、特定の業務に特化した複数のエージェントを開発し、それらを連携させる構造だ。
砂金氏は「人間同士が助け合って作業を進めるのと同じように、それぞれのエージェントが得意なことをやり、できないときは他のエージェントや人間にエスカレーションする仕組みが必要です。すべてにおいて完璧に100点を取ろうとするとスタックしてしまうので、できることを確実にやるための単位を見つけることが大切ですね」と強調した。
技術面では、OpenAIのリアルタイムAPIやAdvanced Voice Modeなどマルチモーダルなモデルの進化に言及し、「今まではテキストベースでのプロンプトが前提でしたが、音声ベースでも実現できる未来がきっとくるでしょう。ただし、日本語部分のチューニングはまだ完全にできていないため、日本語に対応するのを待つか、あるいは別の手段を組み合わせて補填するかは検討する必要があります」と現状と課題を説明した。
