レガシーマインドからの脱却、「ビジネス視点で考えるIT部門」へ
——野村さんはどのような経緯でレガシー領域に関わることになったのでしょうか?
もともとJFRのIT領域は、データ活用とデータ人財の育成を推進する「デジタル部門」と、インフラや共通システム、セキュリティなどを担当する「IT部門」に分かれていて、私はデジタル部門で主にデータドリブン経営のための取り組みを主導していました。具体的にはデータ人財育成のためのプロセス設計と教育プログラムの開発、運用です。

この取り組みが軌道に乗り始めた2024年、2つの部門が統合され、新たな統括部が発足。これを機に、IT部門の部門長に任命され、IT部門の改革に本格的に関わるようになりました。IT部門では、「業務に臨む共通のマインド」を醸成することと、「ITガバナンスを整備し、ITロードマップを描き、アーキテクチャを設計すること」に取り組みました。
そうしたことを進めていたところ、2025年3月の組織再編でDX推進部が発足し、部長に就任。これからはデジタル部門とIT部門が担っていたデジタル推進と戦略・ガバナンス、システム企画を統合し、一体となって「経営をITで支える体制」の構築を目指しています。
——IT部門にはどのような課題があったのでしょうか?
私が感じた第一印象は、誰もが一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、バラバラに取り組んでいるためにIT部門として一貫性のある施策になっていない、というものでした。部員はシステム案件単位でタスクを担っているため、まるでプロジェクトがサイロのようになっている状態。経営から見ても案件ステータスだけが共有される“よくわからない部門”だったと思います。
会社にとって大事な仕事をしているにもかかわらず、案件に関わっている人以外には「IT部門はやたら忙しそうだけど、何をやっているのかよくわからない」というように見えてしまいがちだったのです。
——IT部門のレガシーマインドを変えるためにどのような施策を実施したのでしょうか
スタッフに対しては、最初にデザイン思考の講座を実施しました。これはデータ人財育成の際に開発したプログラムを活用したもので、「個々で努力するよりも、チームとして協力しながら課題を解決する方が、よりよい成果につながりやすく学びも多い」という考え方を伝えることが目的でした。
このようにIT部門に「同じ方向を向いてチームで取り組むことの意味」を理解してもらった上で、IT部門として最初に取り組んだのがガバナンスです。

これまでは規定やルールの整備がメインだったところにプロセスを加え、統制が効くような流れをどう作れば良いかをチームで議論しました。自分たちが考えたプロセスで統制が効くようになると、ガバナンスも良くなるし、もっといろいろ考えてみようという気持ちになるだろうという思惑がありました。
こうした取り組みによって、関係する部署から見ても、予算の執行状況や今後の見込みがわかりやすくなって、IT部門のやっていることが他の部門に理解してもらえるようになるわけです。そうすると事業会社との間に信頼関係が生まれ、コミュニケーションが活性化してくる。そこからITロードマップのイメージが見えてくるんです。
経営に資するIT施策にすべく「システムフィロソフィー」を定義
——マインドの醸成とガバナンスの整備で変革の土台を作った上で、経営を意識した取り組みにシフトしたのですね
ガバナンスの強化は重要ですが、それだけでは従来のIT部門の役割を果たしているに過ぎません。サイロ化していた状態が横断的になっただけで、経営から見ると、まだ「システムを作っているだけの部門」にしか見えない。真の意味で「経営を意識したIT施策を考える部門」にはなっていないのです。そのため、次のステップでは経営とITを結びつける必要がありました。
一般的に、経営とITを連携させるためには、企業のITシステムとビジネス戦略を整合させ、全体の最適化を図るための設計手法である「EA(エンタープライズアーキテクチャ)」に基づくビジョンを描き、経営陣に説明することが必要です。しかし、IT用語やルールに寄ったEAより、もう少し“思想”寄りなアプローチの方が経営陣の理解を得られるのではないかと思ったのです。
そこで思いついたのが、まずは誰にでも理解でき、共感を得られる「経営とITの共通のものさし」を作ろうということでした。それを示すための言葉として考えたのが「JFRシステムフィロソフィー」です。「人や組織の判断や行動を支える土台」という意味を持つフィロソフィーと、システムを組み合わせた造語なのですが、自分でもとてもしっくりきましたし、広く理解してもらえそうな予感がしていました。
JFRシステムフィロソフィーは、次のように定義しました。
「共通のインフラの上で、各業務システムは可能な限り共通システム化をする。また、ID管理された顧客情報を含め、社内の情報はデータ基盤に蓄積され、グループ全体で活用される」
この考え方は、JFRの中期経営計画が掲げる「ホールディングスとしてのシナジーを最大化する」という方針に沿ったものです。このフィロソフィーに基づいてIT施策を考えれば、自然と経営視点を取り入れた施策にすることができます。
経営会議で発表したところ、経営層から良いリアクションが得られ、以降のIT施策は「JFRシステムフィロソフィーに沿っているかどうか」で判断しようということになりました。
——どのようにしてJFRシステムフィロソフィーを社内に浸透させたのですか?
JFRシステムフィロソフィーを社内に浸透させるため、まず全社への発信を行いました。事業会社の経営層が集まる会議やガバナンス会議で説明し、社内ポータルを活用して社員にも広く伝えました。
この発信に対して、経営層からは「意識を統一するのに便利」という声が挙がったり、事業会社からは「詳しく知りたいのでレクチャーしてほしい」という要望が寄せられたりと、好意的な反応が多かったです。そうすることで徐々に「IT部門の取り組みは、経営が目指すホールディングスのシナジー効果を高めるためのものだ」という理解が社内に広がっていきました。
さらに、アーキテクチャの見直しやシステム案件の審査時にフィロソフィーを基準に据えることで、部門間の相互理解も進みました。意見が対立した際にも、「フィロソフィーに照らし合わせるとどうか」という視点で議論を進めることで、意見がまとまったケースもあったようです。フィロソフィーは、ともすれば対立しがちな経営とITの間にある溝を埋め、一体化させていくのに役立つようになっていったのです。

JFRにおけるシステムのあり方を示す「JFRシステムフィロソフィー」
[クリックすると拡大します]