1部署で年間13,361時間もの業務削減を実現、ANA流カイゼン事例
カイゼンは、基本的に以下の4つのプロセスで進められる。
- 現状分析:曖昧な問題を具体化する
- 真因追求:「なぜ」を繰り返して本当の原因を突き止める
- 解決:対策を立案し行動。真因を排除する
- 定着:標準化して横展開する
また、カイゼンでは「ムダ取り」という要素が重視されており、例にもれずANAグループでも、業務において付加価値を生まないものを「ムダ」と定義し、それらを排除するための取り組みを行ったという。ムダには7つの種類があり、同グループでは一般的な分類に沿って以下のような分け方をしているとのことだ。
- リソースのムダ:顧客へのサービス提供にあたり、需要に合った人員数を配置できず業務がスムーズに進まない、余計な人件費がかかってしまうといった事態を招く
- 在庫のムダ:必要以上のストックをもってしまうことで「必要な分だけ持つ」という感覚が麻痺してしまい、作りすぎや持ちすぎといった事態を招く
- 作業そのもののムダ:目的の設定や本当に必要な作業かの検討を行わないことで、本来行わなくてもよい作業まで行ってしまう事態を招く
- 動作のムダ:付加価値の生まない不要な動きをすることで、作業効率を下げてしまう事態を招く
- 移動のムダ:必要以上に物を移動したり、仮置きしたり、積み替えをしたりすることで作業効率を下げてしまう事態を招く
- 待ちのムダ:「前の人の作業が終わらないため、何もできない」といった待ち時間が発生することで、業務が進まない事態を招く
- 不良・手戻りのムダ:作業工程の品質管理ができていない、標準を守らない、そもそも標準が設定されていないことにより、不良品を廃棄したり、手直ししたり、作り直したりする必要性が生じる
これらのムダを取り除くべく、同グループでは数多くのカイゼンが行われた。本書では、空港内の車両点検時間を従来比50%以上削減させた事例が紹介されている。空港の中には、コンテナを航空機の貨物室に搭載するハイリフトローダー、航空機へ乗り降りする際に使うタラップ車など、様々な特殊車両が走っている。その台数は、羽田空港内だけでも320台にのぼるという。
これらの車両を毎日点検しているのが、グランドハンドリング部門のランプサービス部だ。点検作業は、1日あたり約30人の若手社員が夕方から深夜にかけて担当し、点検箇所は1台につき28項目、320台で換算すると8960ヵ所にも及ぶ。
そんな同部署では、現状課題として以下のような課題があったという。
- 1日あたり320枚の点検表を紙で出力している
- 夜に作業をする際、手元が暗くなり点検を懐中電灯を片手に行わなければいけない
- 点検する社員同士で情報共有ができておらず、同じ車を複数の人が点検してしまう
また、現状で点検にかかっている時間を計測すると、年間で約25,000時間を費やしていることがわかった。
こういった現状を加味し、同部署はペーパーレスと情報の共有化をするために、点検票のデジタル化を推進。車両ごとに異なる点検票をデータ化してQRコードを作成し、貼り付けていったのだという。結果、点検に要する時間を従来比52.5%削減し、年間13,361時間ものムダを解消できた。
書籍『ANAのカイゼン』では、これ以外にもANAグループで行われたカイゼンの事例を多数確認できるほか、カイゼン活動を進めるための具体的な手法や、最新技術と組み合わせることで見えてくるカイゼンの新たな可能性などが収録されている。社内でカイゼンを導入しようと思っている方はもちろん、一度カイゼンを導入し上手く定着できなかった経験を持つ方にもオススメの一冊だ。

ANAのカイゼン
出版社:かんき出版
発売日:2024年12月4日
価格:1,760円(税込)
本書について
ANA流の「カイゼン」はどんな職種でも適応できる
ANAのカイゼンはトヨタ自動車が生み出した生産方式を手本にし、非製造業でも使えるようなやり方に変えて2016年から導入した。その結果、
・部署内の年間業務時間を「1万4600時間削減」
・CAの年間業務時間を「2万1000時間削減」
・成田空港の航空機のエンジン保存にかかるコストを半年間で「500万円削減」
・顧客からのクレームに対する一次対応の所要時間を「61%削減」
という成果を得られたという。本書は、どんな業種でも適用でき、会社に文化として定着しする「カイゼンの方法」をわかりやすく解説した。