経営層の「流行りDX」に翻弄される担当者に捧ぐ!億単位の“尻切れトンボ”プロジェクトを防ぐ5つの要点
第4回:AIに幻想を抱く経営層が突っ走る前に……地に足の着いたプロジェクトの進め方

生成AIやAIエージェントなど、新たな技術が次々に登場する中、多くの企業ではこうした新技術を取り入れたプロジェクトが進行していることでしょう。しかし、その指揮を執る経営層が技術を正しく知らない場合、プロジェクトが迷走してしまい、何億円規模の投資を無駄にすることにつながりかねません。連載「PM歴20年超の橋本将功が示す“情シスPMあるある”とその打ち手」では、プロジェクトマネージャー(PM)として20年以上キャリアを積んできた筆者が、プロジェクトの「あるある失敗パターン」から編み出したコツやヒントを情報システム部門の方々にお届けしています。連載4回目となる本稿では、このような“ふわっとしたDX”構想が経営層から降りてきたとき、振り回されないためのプロジェクトの進め方をお伝えします。
DXの成果を感じている企業は1割弱?
年に一度の事業方針説明会。発表前の社長の顔にはいつになく気合いが入っている様子が窺えます。周囲の役員の顔も少し緊張しており、「今回は何かあるぞ」と予感した直後、社長の口から出たのは「これからは我が社も DX に本腰を入れるぞ!」という力強い発言。会場から発言こそ無いものの、誰もが戸惑っている空気が伝わり、「ついに来たか……」という感想が思わず口から溢れます。そして次に浮かんでくるのが、「で、社長が言うDXって、具体的には何のこと?」という疑問です。
「DX」という言葉や概念は、2018年に経済産業省が公表した「DXレポート」で日本国内でも注目され始め、2020年以降のコロナ禍によってリモートワークや非対面サービスが爆発的に広がる中で一層浸透しました。しかし、DXが指す範囲は広く、その内容は人や会社の事情、前後の文脈によって異なるため、「DXをやります」と一口に言っても、共通の認識を持つことが意外と難しいのが実情です。
今やほとんどの企業が何かしらの形でDXに取り組んでいるといっても過言ではないですが、一定の成果を出せている企業は依然として少数です。たとえば、PwCの「日本企業のDX推進実態調査2024(速報版)」では、全社DXに関して「十分な成果が出ている」と回答した企業はわずか9.2%という結果に。 DXの推進には人材育成や継続的な投資、データに基づく経営方針の立案など、中長期にわたる戦略的な取り組みが必要であるとされています。

出典:『日本企業のDX推進実態調査2024(速報版)』(2024年7月29日、 PwC Japan)
経営層の“バズワード”に疲弊……尻切れトンボプロジェクトの実態
また、ITの世界は移り変わりが激しく、数年もしないうちに新しい技術やトレンドが矢継ぎ早に出てきます。古くは「Web2.0」に始まり、最近では「IoT」「RPA」「5G」「ブロックチェーン」「メタバース」「Web3」……そして今はなんといっても「生成AI」でしょう。技術に明るくない経営陣ほど、こうしたバズワード(一時的に技術的な流行で使われる言葉)に影響されやすく、テレビ・雑誌のインタビューや経営者同士の飲み会などで“凄い話”を聞くと、すぐに意識がそちらに移ってしまいがちです。「この前まではメタバースを押していた社長が、『今はAIだ!』と言っている……」といった話もよく聞きます。
ITのトレンドが短い期間で移り変わる一方で、新しい技術や取り組みを実際に事業や組織に活かすためには、適切な投資・検証・実践を行う一定の時間が必要です。しかし、移り気な経営層は一つのトレンドが過ぎ去れば最初の熱意を失って、また新しいトレンドに目移りしてしまうため、現場の人たちは形だけの号令や“尻切れトンボなプロジェクト”の繰り返しに付き合いきれず、疲弊してしまいます。
現場には「また思いつきで新しいことをやるのか……」「どうせ今回も最後まで行かずに終わるんでしょ?」と、どこか冷めた空気が漂ってしまい、そんな中でプロジェクトが立ち上がっても、誰しもが受け身の姿勢で積極的に関わろうとしません。また、新しい技術を正確に理解している人が意思決定者に少ない場合は、プロジェクトを進めるうちに企画時点と言っていることが変わることもしばしば。「業務改善の話だったはずなのに、いつの間にか新規事業の話になっている……」なんてことも起こりがちです。
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橋本 将功(ハシモト マサヨシ)
パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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