経営層の「流行りDX」に翻弄される担当者に捧ぐ!億単位の“尻切れトンボ”プロジェクトを防ぐ5つの要点
第4回:AIに幻想を抱く経営層が突っ走る前に……地に足の着いたプロジェクトの進め方
“経営層の現場を知る機会”にきちんと投資せよ
投資判断やプロジェクトの重要な意思決定を行う経営層に向けて、勉強会やセミナーを外部の専門家に依頼するのも効果的です。DXの捉え方や具体的な進め方、さらに生成AIの使われ方や技術上の長所・限界など、実際の経験に基づいた現場のリアルを経営層に理解してもらう手助けになります。外部の専門家に依頼した場合、勉強会やセミナーの費用は数万円〜数十万円ほどでしょう。それで数千万円、数億円の投資を無駄にすることを防ぎ、プロジェクトが炎上して優秀な人材やベンダーとのトラブルを抱える可能性を減らせるなら、極めてコストパフォーマンスが良い投資だといえます。

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外部の専門家を探すにあたっては、関連するテーマの書籍を執筆している著者や、自分から情報発信を行っている人を探したり、専門家のマッチングサービスを利用したりして直接アプローチをすることで、関係性を構築できます。専門家の数や使える時間は限られているため、適切なマッチングを行うには一定の時間と労力がかかりますが、得られる効果を鑑みて、こうした手間を惜しまないことが重要です。また、専門家に依頼する際のポイントは、単発の勉強会やセミナーとして依頼することです。無料で開催されているセミナーに申し込んだり、営業目的で入り込んでくる事業者に講義を依頼したりすると、必然的に「何かを買わなければいけない」状況に誘導されやすいからです。
ITのトレンドには集客効果があるため、事業者は自社商品やサービスの販売に直接関係ないバズワードを入れ込んで集客を目論むことがあります。一つ例を出せば、組織改革や業務改善につながらない単なるツールの宣伝を「DXセミナー」と銘打ち、集客しているようなものです。
専門的な知識や経験に基づく知見は、現代の経営戦略において極めて重要なリソースです。その確保には一定の試行錯誤が必要ですが、外部の専門家から自社に「知識の移転(Knowledge Transfer)」を行うことは非常に戦略的かつ本質的な取り組みとなります。目的がふわっとしたプロジェクトが実施されることを未然に防ぎ、その結果として生じるであろう投資の失敗や人材の損失を回避できるからです。
「用心棒」として専門家も活用する
経営層が新しい技術の利点と限界を正確に把握し、PoCプロジェクトで目的を達成できる見込みが立ったら、実際にそれらをプロダクト(サービスやシステム)に利用するためのプロジェクト実行フェーズに移ります。このときも外部の専門家に頼ることは有効なアプローチです。
新しい技術を利用したプロジェクトでは、想定外のバグや技術の提供元企業の方針転換によるサービス内容の変更など、予測していなかったリスクが顕在化することがあります。このような場合に備え、経験と知見を持つ専門家のアドバイスを得られる環境を作っておくことはプロジェクトの成功率を上げることにつながります。

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また、専門家を顧問としていつでも意見を得られるようにしておくことで、プロジェクトの進行自体も効率的に進められます。顧問弁護士やかかりつけの医師のように、何かあったときの「用心棒」のような存在を用意しておくと、プロジェクト成功後の体制づくりや人材育成などにも役立つでしょう。もし仮にプロジェクトが失敗したとしても、それによって発生する組織や人材へのダメージを減らす「受け身」のためのアドバイスなどを得られる可能性もあります。
高度な技術や知識を持つ専門家の報酬は比較的高額となる傾向にありますが、たとえば30%稼働(月48時間)をキープするなど、一定の稼働量として報酬額を設定すれば費用を抑えることも可能です。自社の社員にはない知識や経験を持っている専門家のサポートをプロジェクトの「保険」として捉えると、うまく使いこなせるでしょう。
DXのような多大な投資と長い期間を要する取り組みでも、基本的なプロセスとして押さえておくべきことは「正しい知識の把握と共有」「新しい技術の検証」「専門家による継続的なサポート」「適切なプロジェクト意思決定」「適切な投資判断」の5つです。トレンドは新しい技術や知識を得るという意味では役に立ちますが、それに振り回されず“自社にとって良い部分だけ”を取り込んで事業や組織に活かしていくことが、変化の激しい時代には欠かせません。
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橋本 将功(ハシモト マサヨシ)
パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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