経営層の「流行りDX」に翻弄される担当者に捧ぐ!億単位の“尻切れトンボ”プロジェクトを防ぐ5つの要点
第4回:AIに幻想を抱く経営層が突っ走る前に……地に足の着いたプロジェクトの進め方
経営層が語る“ふわっとしたDX”に巻き込まれないために
特に最近増えているのが、経営層が「AIがあれば何でもできる」と思い込んでいるパターンです。生成AIの登場以降、劇的に業務が改善されたという事例や大げさに効果を煽るSNS投稿・メディア記事が飛び交っており、それを見た経営層から「AIでうちの業務を自動化してくれ」「社員のノウハウをAIに覚えさせて効率化できないか」「AIで簡単に業務システムが作れるのではないか」といった都合のいい話が現場に降ってきて、困惑している担当者の悩みもよく聞きます。
しかし、実際に新しい技術をプロジェクトに導入する際は、その技術によって何がどこまでできるようになるのか、どう使えば適切な効果が得られるのかを正確に見極める必要があります。専門家からすると、そのプロセスを経ていないアイディアは「ピントがずれているな……」と感じることも多いでしょう。

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まずは空中戦をやめる、「技術の検証」を最優先に
では、こうした“ふわっとしたDX構想”に巻き込まれそうになったとき、現場としてはどう動けばいいのでしょうか。
まず大事なのは、実際に技術を利用してその効果を確めるプロジェクトを立ち上げることです。人によって想像するものが異なる「AI」や「DX」などの概念や言葉だけが先行している状況では、どうしても発言者の思い込みが構想のベースとなってしまい、企画や要件定義の検討も空中戦になりがちです。場合によっては、「きっとこんなこともできるはず」という思い込みに基づいて、技術が持つ特性とはかけ離れたアイディアを元に何千万円・何億円規模のプロジェクトが走り出してしまうかもしれません。そうなる前に「まずは手を動かしてみよう」というわけです。
たとえば、「業務マニュアルの要約を生成AIにやらせてみよう」「問い合わせ対応にチャットボットを使ってみよう」といった、新しい技術を最小限の期間と費用で検証することを目的とした数ヵ月程度で終わるプロジェクトを立ち上げるのです。これは「PoC(Proof of Concept)」と呼ばれ、組織に技術のノウハウを蓄積するうえで非常に効果の高い取り組みです。
また、このPoCプロジェクトの検証結果を、経営層など組織や事業の意思決定を行うポジションの人に説明する際には、技術の利点や限界を正確に理解してもらうことに重点を置きましょう。さもないと、「事業部長の肝いりで生成AIを利用した新規事業のプロジェクトが2億円の規模で動き出しているが、事業部長は生成AIをほとんど使ったことがないし、具体的な知識もない」といった致命的な状況に陥る恐れも……。利用する技術の特徴を把握していない人がプロジェクトで正確な意思決定を下すことはできません。
さらに、企業にありがちな複雑な承認ルールをいかに早く通過できるかの工夫も必要です。ツールをひとつ導入するにも、課長→部長→事業部長といったように何人もの決裁ルートを通過しないといけなかったり、セキュリティ審査や費用対効果の精査まで求められたりすると、新しい技術を検証する前に数ヵ月かかってしまい、技術の旬を逃してしまいます。
また「手続きが面倒だ」という気持ちが先に立ってしまうと、社員は個人的に興味深いと感じた技術でも自社で利用することを避けるようになったり、個人で勝手に課金して業務に利用してしまったりするでしょう。会社の許可を取らず、個人で勝手に新しいツールやアプリケーションを業務に利用することを「シャドーIT」といいますが、これは非常にセキュリティリスクが高いとされています。こうした問題を回避するために、PoCプロジェクトに限定した決裁フローやルールを策定し、新技術をスピーディに試せる環境をあらかじめ整えておくことが重要です。この下準備が新技術を自社で活用できるかの命運を左右します。
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橋本 将功(ハシモト マサヨシ)
パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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