アイ・ティ・アール(以下、ITR)は、米国の相互関税政策(通称:トランプ関税)の発表を受けて、4月に実施したIT動向調査の結果を発表した。
同調査は、国内企業でIT戦略の策定やIT実務に関わる課長以上の役職者を対象に実施したという。
自社の業績が「悪化すると思う」と回答した割合は7割超
トランプ米政権の関税政策が自社の業績にどのような影響を及ぼすかについて、率直な意見を聞いた結果、「大幅に悪化すると思う」「やや悪化すると思う」と回答した企業は、合計で71%。とりわけ自動車製造業は影響を深刻に受け止めており、業績悪化を懸念する企業は90%に達したという。
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また、自社のIT・DX戦略の進展にもたらす影響についても聞いたところ、「大きく減速させる」「やや減速させる」と回答した人が60%と半数を超え、関税政策が国内企業の業績だけでなく、IT戦略の進展にも影を落とすと考える企業が多いことが明らかになったとしている。
2026年度のIT予算とIT中期計画を見直す企業は半数以上
トランプ関税にともなうIT投資計画の見直し状況を調査した結果、トランプ関税が国内企業のIT投資に影響を及ぼしている兆しが確認されたという。2025年度のIT予算については、「既に見直しを実施済みである」が4%、「現在見直しを検討中である」が14%、「今後見直す可能性がある」が26%となり、合計で44%の企業が見直しの意向を持っているとのことだ。
2026年度のIT予算については、「現在見直しを検討中である」が17%、「今後見直す可能性がある」が38%。これに「既に見直しを実施済みである」の3%を含めると、見直しの意向を持つ企業は58%に上り、トランプ関税への懸念が来年度にさらに影響を及ぼすと見られると同社は述べる。
また、IT戦略に関わる中期計画についても、「現在見直しを検討中である」が19%と高く、「今後見直す可能性がある」「既に見直しを実施済みである」を含めると、58%の企業が見直しの意向を示している。
これらの結果から、トランプ関税の影響は、短期的なIT投資だけではなく、中長期的なIT戦略にも波及することが予想されるとのことだ。
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さらに、2025年度および2026年度のIT予算を見直す意向を示した企業に対して、どのように見直すかを質問すると、2025年度については、当初計画した予算よりも「増額した(増額を見込む)」が42%で、「減額した(減額を見込む)」の25%を上回ったという。計画中の2026年度のIT予算においても、同様の傾向が確認されたと同社は述べている。これは、トランプ関税の影響によるIT製品やサービスの価格上昇を見越して、IT予算を増額しようとする動きとも推測されるという。
ハードウェアからクラウドサービスへ支出がシフト
トランプ関税の影響によって、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービスなどの各IT支出がどのように変動すると見込んでいるかを質問。「サーバー、ストレージ、ネットワーク機器」「PC」「モバイルデバイス」のハードウェア支出については、減額を見込む企業の割合が増額を見込む企業を上回っており、関税による調達コストの上昇を懸念した慎重な姿勢がうかがえるという。
一方、「IaaS、PaaS」および「SaaS」に関しては、増額を見込む企業の割合が減額を上回る結果に。これは、ハードウェアの調達コストの増加を想定して企業がクラウドサービス利用へシフトする動きや、ハードウェアの調達コスト上昇分をクラウドベンダーがサービス料金に転嫁する可能性を考慮した結果と考えられるとのことだ。
また、「IT人材の採用コスト」は、全項目の中で最も増額を見込む企業の割合が高く、減額を大きく上回ったという。IT製品やクラウドサービスのコストの見通しが不透明な現状にあっても、IT人材への投資を強化し、IT戦略を推し進めようとする姿勢が見て取れると同社は述べている。
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IT戦略において「コスト管理の厳格化」の優先度が上昇
トランプ関税にともない、IT戦略上優先度が高まると考えられる取り組みとして、最も多くあげられたのは「コスト管理の厳格化」で28%。次いで、「国内ITベンダーとの取引強化」と「海外製品・サービスの調達コスト上昇への対応」がいずれも25%で続いたという。国内企業においては、短期的なITコスト削減や調達先の国内回帰の動きが強まることが予想されるとのことだ。
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調査概要
- 調査会社:ITR
- 調査期間:2025年4月22~24日
- 調査方法:ITRの調査パネルメンバーのうち、従業員数50人以上の国内企業に所属し、IT戦略・IT投資の意思決定に関与する課長以上の役職者に対して、Web経由で回答を呼びかけ。その結果、1,271人から有効な回答を得た
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