パナソニックコネクトは再生を阻む伝統企業の壁をどう突破するのか?/榊原CTOが「Blue Yonder」と「SRE」による戦略を語る
「PagerDuty on Tour Tokyo 2025」レポート#02
業績の低迷や人員削減など苦境に立たされ、構造改革と事業選別の真っただ中にあるパナソニックグループ。その中でパナソニックコネクトは、B2B分野の中核企業として、成長が期待されるサプライチェーンやデジタル分野を軸にグループ再生の牽引役を担う重要な位置づけとなっている。重要な鍵となるのがBlue Yonder(ブルーヨンダー)によるサプライチェーン変革と「SRE」による開発・運用体制だ。同社CTOの榊原彰氏が、PagerDutyのカンファレンスで語った内容を紹介する。
伝統的製造業の枠を超え、クラウドネイティブへと進化するパナソニックコネクト

パナソニックコネクトは、パナソニックホールディングスの下にある7つの事業会社の1つで、売上高約1兆2,000億〜3,000億円規模の企業だ。ハードウェアベースの事業とソフトウェアベースの事業を両輪として展開している。ハードウェア部門では、電子回路の実装、精密溶接ロボット、航空機アビオニクスからメディア・エンターテインメント設備、堅牢なビジネス向けモバイルPC「レッツノート」(Let's note)などのモバイルソリューションを手がける。一方、ソフトウェア部門では2021年に買収した「Blue Yonder」(ブルーヨンダー)を中心としたサプライチェーンソリューションを提供している。
「パナソニックは伝統的な日本の製造業で100年の歴史がある企業です。創業者の松下幸之助さんが考えたことがずっと守られてきました。それはそれでいいことですが、時代に合わないところもあります」と榊原氏は指摘する。固定的な観念や古いプロセスが残る中、同社はクラウドネイティブな開発・運用体制への転換を進めている。

プロダクトアウトからマーケットインへ、3部門連携の組織改革
榊原氏が2021年10月に入社した当時、研究開発部門は「この技術はいい技術なのでどこかに売れるはず」というプロダクトアウト型の姿勢だった。「こういう研究をしているが、この技術をどう売ればいいか」「出口はどこか」という状態だったという。
この状況を変えるため、榊原氏は組織改革に着手。研究開発チーム、クラウドエンジニアリングセンター(クラウドインフラ構築)、SaaSビジネスユニット(商用化)の3部門を連携させる「テクノロジープロダクトライン」を構築した。
「マーケットの様子を伺いながら技術開発をする体制にしようということで今の体制に変えています」と榊原氏は説明する。研究開発で作った技術をクラウドインフラに乗せ、SaaSビジネスユニットが販売するという一気通貫の流れを作り出したのだ。
Blue Yonderを中核とした「オートノマスSCM」の展開
パナソニックコネクトの戦略の核となるのが、2021年に買収したサプライチェーンマネジメントのクラウドサービス企業「Blue Yonder」だ。同社はサプライチェーンの調達、製造、物流、販売、返品管理までをカバーするエンドツーエンドのソリューションを提供している。

「ハードウェアベースの事業は成長率が高くない市場ですが、確実に収益を上げられるキャッシュカウ的な事業を残しています。そこから得られるお金を成長市場であるソフトウェアの方に投資していくという戦略です」と榊原氏は説明する。
パナソニックコネクトは、Blue Yonderを中心に、返品管理を担う「Doddle」、生産スケジューリングの「Flexis」、動的サプライチェーンネットワークの「One Network」など、サプライチェーン関連のソフトウェア企業を次々と買収。物流ソリューションの「Zetes」やマテリアルハンドリングロボットの「Robotize」も傘下に収めている。
これらの買収により、同社が目指すのは「オートノマスサプライチェーン」(オートノマスSCM)の実現だ。現場でセンシングしたデータをAIで解釈し、CPS(Cyber-Physical System)技術によるデジタルツインで確認・シミュレーションした後、現場にフィードバックするループを構築。これをクラウドと連携させることで、複数拠点の工場最適化や在庫の融通性向上などを実現する構想だ。
「Blue Yonderは北米の20社以上のお客様にサーベイを実施し、約60のオートノマスSCMのユースケースを作成しました。これを3つのカテゴリーに分けて順次実装しています」と榊原氏は語った。

クラウドネイティブへの転換を阻む3つの壁

伝統的な製造業からクラウドネイティブな開発・運用体制への転換には大きな障壁がある。榊原氏はパナソニックが直面する3つの課題を挙げた。
1つ目は、クラウド開発に不可欠な頻繁なリリースサイクルやリーン開発の考え方が根付いていないことだ。「市場のフィードバックを得ながら、MVP(最小限の製品)をリリースして機能を追加していくという発想がなかなかありません」と榊原氏は指摘する。
2つ目は、硬直化した品質管理プロセスだ。「なぜこんな品質チェック項目があるのか聞いても誰も答えられない謎の品質チェック項目がいっぱいありました」と榊原氏は語る。「昔事故が起こったので追加しました。根拠はよく分からないけど、ずっと守っています」という状態だったという。
3つ目は、研究開発チームと顧客との接点が少ないことだ。「研究開発チームはお客様と触れ合う機会が少なく、自分から取りに行く機会を得ようとしない、そういう悪い習慣もありました」と榊原氏は率直に語った。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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