IVIと図研・NEC・電通総研が描く「日本版インダストリー4.0の第2幕」──IVI設立10周年イベント
一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)設立10周年記念セミナー
国内PLMトップランナーが描く、製造業DXの現在地
- 西岡靖之氏 IVI理事長/法政大学教授/ダイナフロー代表取締役(モデレーター)
- 上野泰生氏 株式会社図研 専務執行役員
- 杢田竜太氏 日本電気株式会社 マネジメントコンサルティング統括部 ECMグループ ディレクター/グループ長
- 尾下充利氏 株式会社電通総研 コンサルティング本部 コンサルティング第3ユニット ユニット長/ディレクター
後半のパネルディスカッションでは、その実現を支える具体的なソリューションとアプローチについて議論が展開された。国内PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)分野のトップランナー企業である3社の提供するソリューションの思想や背景についてのプレゼンテーションから始まったディスカッションは、それぞれの歩みが日本の製造業と共に進化してきたPLMの歴史を映し出すものとなった。
図研 上野氏:エレキCADから統合BOMへ、海外売上比率60%を誇るBOM/BOPの原点
![上野 泰生氏 株式会社図研 専務執行役員 [画像クリックで拡大]](http://ez-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/22463/22463_002.jpg)
図研の専務執行役員である上野泰生氏の発表は、西岡氏が提起した「日本のソフトウェアが世界で戦える」可能性を具現化した成功例といえる。図研の半世紀にわたる歴史が製造業のDX支援そのものであったと語る上野氏は、1976年のエレキ設計CAD開発から始まり、エレキのPLM、電子部品ECサイト「チップワンストップ」の設立、メカ領域への進出、そしてエレメカ統合BOM「Visual BOM」の開発へと事業を拡大してきた軌跡を紹介した。
上野氏は製品開発の原動力となった自身の経験を語った。営業時代、顧客から「新しい技術も良いが、CADデータから調達・実装まで使える実用的な製品が欲しい」という要望を受け、独力でBOMシステムのプロトタイプを開発した。この成功体験が後のVisual BOM開発へと繋がったという。
同社の思想の根幹には、「BOMは設計後の成果物ではなく、CADと同列に存在する重要な設計データである」という考え方がある。設計者はCADだけを見ていてもコストや部品の最適化はできず、BOMと連携して初めて実現できると指摘。この思想は、エレキ設計の特性(部品の標準化、単純な包含関係)をメカ設計に応用しようという挑戦から生まれたものである。
上野氏は、IT化がスケールメリットを追求する「進化」であるのに対し、DXは知見やノウハウに依存したイノベーション、すなわち「探索」であると定義。「日本には優秀な中小企業がたくさんある。そうした企業群をデジタルで支えていきたい」と、西岡氏の中小企業支援ビジョンと合致する今後の展望を語った。
NEC 杢田氏:「人でつなぐ」から「データでつなぐ」へ、日本型ものづくりの変革を支援

NECでPLM導入コンサルティングを長年手掛けてきた杢田竜太氏の発表は、西岡氏が指摘した「日本のものづくりの強みを活かしつつ、デジタル化による効率化を実現する」という課題への具体的なアプローチを示すものとなった。
杢田氏は、日本のものづくりの課題認識として、「これまでは『人でつなぐ』ことで良いものを作ってきたが、今後はその良さを残しつつ『データでつなぐ』ことが重要になる」と指摘した。現場担当者の暗黙知や工夫によって品質が担保されてきた一方、全体最適の視点では非効率やブラックボックス化を生んでいたと分析。この課題を解決する鍵が、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを連携させることにあると強調する。
「多くの企業がERP導入などを通じてサプライチェーンの効率化に取り組む中で、その基盤となるマスターデータ、すなわちBOM/BOP(Bill of Process)の重要性に気づき始めている」と杢田氏は述べ、PLMがもはや設計部門だけの課題ではなく、全社的な経営課題として認識されるようになったと昨今の変化を語った。
同社のPLMソリューション「Obbligato」は、このBOM/BOPを中核に据え、様々なITシステムと連携して「つながるものづくり」を実現するものだと紹介。「製品は複雑化し、技術者は減り続ける。環境対応など要求も増える一方だ。多忙を極める技術者の皆様を、テクノロジーによって支援することが我々の使命だ」と語った。
電通総研 尾下氏:BOPはエンジニアリングチェーンとサプライチェーンを繋ぐ要

電通総研の尾下充利氏は、メーカーで液晶パネルの生産管理に従事した経験を持つ。フルオートメーションの工場でBOP作成や工程設計を自ら担当した経験から、「システムを入れるだけでは現場は良くならない」と痛感し、コンサルティングの世界に転身した経緯を語った。20年前からBOPに携わってきた「BOP屋」を自認する尾下氏は、「エンジニアリングチェーンで品質とコストの大半は決まる。しかし、そこに生産現場からのフィードバックループが十分に構築できている企業はまだ少ない」と課題を指摘。このループを構築する上で、BOPが中核を担う重要な要素になると力説した。
同社の強みは、CAEから始まったシミュレーション技術と、業務とITの両輪で改革を推進するコンサルティング力にあると説明。提供するソリューション「R-3D」などを通じ、BOMからBOPを生成し、さらにMES(製造実行システム)へとつなげる一気通貫のデジタル化を支援している事例を紹介した。
今後の展望として、サーキュラーエコノミーやAIエージェントの台頭を挙げ、「AIが自律的に作業を進めるようになると、判断の基盤となるデータの正確性や網羅性、互換性がより一層重要になる。そのベースとなるのがBOPだ」と述べた。さらに、「将来的に、企業やシステム間で連携可能な、ある程度標準化されたBOPの構造が必要になるのではないか」と、来るべきAI時代を見据えた提言を行った。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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