ミック氏が解説、大手ベンダーも参入する「NewSQL」の価値とは?8つの事例から見る強みと可能性
MySQL互換性を持つ「TiDB」や日本に未進出のダークホース「CockroachDB」の活用事例

近年、RDB(リレーショナルデータベース)とNoSQLのトレードオフを解消する技術として、「NewSQL」と呼ばれる製品群が大きな注目を集めている。「TiDB」「YugabyteDB」「CockroachDB」といったスタートアップ企業の製品だけでなく、最近ではAWSが「Aurora DSQL」を正式リリースするなど、活況を呈している分野だ。本稿では、2025年7月10日〜11日に開催された「db tech showcase 2025 Tokyo」の講演でミック氏が解説した、NewSQLの全貌と具体的なサンプルケースについて紹介する。
データベースの歴史から辿るNewSQLの本質
「NewSQL」は、既存のデータベース技術であるリレーショナルデータベース(RDB)とNoSQLの利点を組み合わせ、それぞれの課題を解決することを目指した新しいデータベースカテゴリーだ。海外では、「分散データベース」や「分散SQL」と呼ばれることもある。ミック氏はそんなNewSQLの動向について、データベースの歴史から順に説明した。
データベースの歴史は、大きく3つの時代に区分される。2000年代後半まではRDBの全盛期で、これにはSQLが利用できテーブル定義が可能、ACIDトランザクションをサポートしているという利点があった。一方、水平スケーラビリティや高可用性アーキテクチャの確保には課題があった。
2010年代には、高可用性と水平スケーラビリティが強みの「NoSQL」が登場した。しかし、ACIDトランザクションの欠如やSQL、テーブル定義の制限といったトレードオフがあった。そして2020年代に入り、RDBとNoSQLの“良いとこ取り”をしたNewSQLが利用されるようになった。
NewSQLの“新しさ”は、RDBが持つリレーショナルなテーブル定義、ACIDトランザクション、SQLインターフェースの良さを維持しつつ、スケーラビリティと分散データベース構成による高可用性を両立できる点にある。これは、コンピュート層とストレージ層を分離し、書き込みを分散構成で受け取れるアーキテクチャを採用することで実現されているという。
具体的には、複数のノードでデータを複製・同期するログレプリケーションを用いて、過半数のノードからの同意を得て書き込みを成立させることで、従来のマスターノードがボトルネックとなっていた書き込み処理のスケーラビリティの問題を解決している(分散合意アルゴリズムRaftが利用されることが多い)。これにより、NewSQLは読み込みと書き込みの両方をスケールさせることが可能となった。
活発化するNewSQLの市場動向、各社のアプローチを比較
NewSQLの主要なプレーヤーとしては、まずGoogleの「Spanner」があげられる。そこから、Yugabyteの「YugabyteDB」、PingCAPの「TiDB」、Cockroach Labsの「CockroachDB」といったNewSQLが登場した。これらは、Spannerに影響を受けて開発された製品である。
それぞれの製品の特長について見ていこう。PostgreSQLに互換性を持つNewSQLデータベースが多い中で、TiDBはMySQL互換性を持つ点が特徴的だ。CockroachDBは「ゴキブリのようにしぶとい」という名前に由来し、その名のとおり堅牢性が求められる大規模サービスで利用されているが、まだ日本には進出していない。

近年では、AWSの「Aurora DSQL」のローンチや「Oracle Database 23ai」によるRaftベースの分散構成のサポートなどに見られるように、大手ベンダーもNewSQL市場に参入しており、市場の動きが活発化しているとミック氏は語る。なかでもAurora DSQLは、マルチリージョン構成で5ナイン(99.999%)の可用性を謳っており、堅牢性とハイパフォーマンスの両立を目指している。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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