AIエージェント時代に人が定義すべきデータの「意味と信頼」とは──大阪ガス/IDC/ZAIKOが示す
「primeNumber DATA SUMMIT 2025」基調講演レポート
11月26日、primeNumberが主催するカンファレンス「primeNumber DATA SUMMIT 2025」が開催された。今回のテーマは「Humans trust, AI learns」。企業のAI活用は、チャットボットによる業務効率化といった初期段階を脱し、AIエージェントの実装、そしてそれを支える「データガバナンス」の再構築へとフェーズを移している。AIがビジネスの中核になりつつある今こそ、「人間の意志」と「データの信頼性」が問われているといえよう。本稿では、大阪ガス DX企画部ビジネスアナリシスセンター 所長の岡村智仁氏や、IDC Japan 鈴木康介氏、ZAICO 代表取締役の田村壽英氏らが登壇した基調講演の内容をレポートする。
「AIは魔法ではない」人が理解し、信頼できるデータを
基調講演の冒頭に登場したprimeNumber 代表取締役CEOの田邊雄樹氏は、生成AIの登場から数年を経て、AI活用は単なる「対話型」から、自律的にタスクを遂行する「エージェント」へと進化しているとした一方で、企業が保有するデータの実に80%以上がいまだに「マテリアル(素材)のまま放置されている」という調査結果を引用し、データ整備の遅れに警鐘を鳴らす。
AIに魔法のような万能性を期待するのではなく、まず人間がデータの意味(コンテキスト)と信頼(Trust)を定義し、それをAIに正しく学ばせる(Learn)環境を作ることこそが、本質的な競争優位になると語った。
「データはある。しかし、AIがそれを正しく理解できない──これが今、多くの企業で起きている悲劇です。AIがどれだけ便利で賢くなり、破壊的イノベーションを起こそうとも、意思決定するのは『人』です。AIが正しく学び、動き、答えを出すためには、まず『人が理解し、信頼できるデータ』でなければなりません」(田邊氏)
大阪ガス:業界標準コストの5分の1で高負荷分析基盤を実現
田邊氏が1人目のゲストスピーカーとして壇上に招いたのは、大阪ガス DX企画部 ビジネスアナリシスセンター 所長の岡村智仁氏だ。
岡村氏が率いるビジネスアナリシスセンターは、約40名のメンバーからなるデータサイエンティストの専門部隊。30以上の社内プロジェクトに関与しており、年間100近いソリューションを生み出し、関係会社へ提供している。
こうしたデータ分析を支えるのが、ペタバイト級のデータを処理できる同社独自の「高負荷データ分析基盤」だ。この基盤は、Google CloudやprimeNumberのクラウドETL/ELTツール「TROCCO」をはじめとしたSaaSを組み合わせ、内製で構築されたものである。社内のデータ利活用はもちろん、IoT機器などからデータを収集、分析して機器を制御するといった顧客へ提供するサービスも支えている。
岡村氏は「SaaSやマネージドサービスをかしこく組み合わせることで、業界標準と比較して約5分の1という圧倒的なコスト効率を実現している」と明かす。このコスト競争力こそが、数多くのトライ&エラーを可能にする土台となっているのだ。
同氏は、基盤上で稼働しているデータ活用事例の一つとしてエネルギーマネージメントを挙げ、「VPP(バーチャルパワープラント:仮想発電所)」と「省エネ制御」の2つの取り組みを紹介した。
再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、電力需給のバランス維持が深刻な課題となる。そこで同社は、家庭用燃料電池(エネファーム)や蓄電池、空調機器といった電力需要をコントロールできる数万台の機器を束ね、AIによる高度な制御を行っているのだ。
「我々は『Energy Brain』というサービスを通じ、電力需要を予測し、リアルタイムで機器を遠隔制御しています。このようにデータ収集から需要予測モデルの作成、予測結果の連携までを自動で行う『LMOps』の仕組みを内製開発し、実用化しているのです」(岡村氏)
同社では現在、約700本のデータ連携をTROCCOによって実現しているという。今後はこの基盤上でAIエージェントを活用し、システム開発や運用監視(AIOps)の自動化といった領域にも適用範囲を拡大していく構想だと岡村氏は語った。
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