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24時間運用のMSP拠点をあえて「リゾート地」に スカイ365が挑む、脱コスト削減のオフショア戦略

初の海外拠点、「日本品質」をベトナム・ニャチャンで実現へ

 国内IT人材の枯渇が深刻化する中、「2025年の崖」を乗り越える鍵としてオフショアのあり方が大きく変化している。コスト削減が主導していた頃から、今は“質の高い”リソースの確保や事業継続性を支えるパートナーシップへと、その役割を変えつつあるのだ。こうした中、クラウドに特化したMSPを提供するスカイ365は、ベトナムのリゾート地「ニャチャン」に新たなオペレーションセンターを開設した。なぜハノイやホーチミンといった大都市ではなく、地方都市を選んだのか。そこには24時間365日の安定稼働を使命とするMSPならではの緻密な戦略、そして日本とベトナムの若者が紡ぐ、新たな「協創」の姿があった。

コスト削減から「リソース確保」へ 変容するオフショア最前線

 国内のIT業界は、深刻な人材不足に直面している。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」、日本の産業全体を取り巻く「2030年問題」に象徴されるように、人材不足は待ったなしの状況だ。

 その状況下、IT業界において長らく活用されてきたのが「オフショア人材」だろう。かつて、その目的は「コスト削減」だったが、今は「リソース確保」へと大きくシフトしている。自社システムの開発・保守要員としてだけでなく、基幹システムやクラウド基盤を安定稼働させるための人材、特に24時間365日体制での運用保守やサポート継続のためにも、オフショア人材には期待がかかる。少子化に加えて「働き方改革」が推進されてきた中、夜間や休日に対応するための人材確保はかなり厳しい状況だ。

 オフショア開発に関する調査[1]によれば、オフショア開発を検討・活用している企業の半数以上が、今後もオフショア事業を「拡大していく」との意向を示している。その際の委託先国としては、ベトナムの人気が高い結果(42%のシェアで1位)となった。かつては中国やインドが主要なオフショア先とされてきたが、近年ではベトナムが新規案件の中心となっているようだ。

 その背景には、ベトナムならではのいくつかの優位性がある。一つは「ITリソースの質と量」。ベトナム政府はIT人材育成に国を挙げて取り組んでおり、若く豊富なITエンジニアが市場に供給されている。また、前出の調査では、親日的な国民性や勤勉さ、地理的な近さも評価されるポイントとされており、日本語故の“曖昧さ”を含む指示にも「(日本人と)似た感覚」で対応できる人材が多いとのことだ。

 もう一つ、「対応領域の広さ」もベトナムの優位性だろう。同国のオフショア開発企業では、従来のWebシステムに留まらず、AIやブロックチェーン、SAPなどの基幹システムを専門とするエンジニアなど、高度な案件にも対応可能な体制が整いつつある。

 そして「コストメリット」「都市分散」という観点からも、ベトナムは魅力的だと言える。同国の平均人月単価は、オフショア先となる主要国と比較しても安価な水準を維持しており、職能が上がっても単価の上昇幅は小さい。コスト削減効果は減少しているものの、ハノイやホーチミンといった大都市だけでなく、ダナンなどの地方都市への分散が進んでいることで、コストを抑えながらリソースを確保する余地がある。

[1] 『オフショア開発白書(2024年版)』(株式会社テクノデジタル、2025年1月14日)

なぜハノイでもホーチミンでもないのか? 独自の戦略拠点「ニャチャン」のポテンシャル

 テラスカイグループで、BeeX子会社のクラウドMSP企業であるスカイ365は、グローバルでのITリソース確保、運用の高度化といったニーズに対応するため、ベトナム・ニャチャンに「スカイ365ベトナムセンター」を2025年11月21日に開設した。同センターはBeeXグループとして、初の海外MSP拠点となる。

 スカイ365がハノイやホーチミン、あるいはダナンではなく、ベトナム南中部の都市ニャチャンを選定した背景には、いくつかの戦略的な狙いがある。まずは「地理的な優位性」だ。かつては軍港が置かれていたニャチャンは台風や地震が少なく、安定したインフラを確保できた。国内拠点の札幌・東京とあわせた3拠点による、強固な“DR(災害復旧)体制”を確立することで、「製造業をはじめ、顧客から求められる地理的冗長性を確保する」と同社 代表取締役社長の藤岡真悟氏は話す。

株式会社スカイ365 代表取締役社長 藤岡真悟氏
株式会社スカイ365 代表取締役社長 藤岡真悟氏

 スカイ365ベトナムセンターは、軍・民間の共用を目的とした施設「アーミーソフトウェアパーク」内に置かれる。軍用レベルのセキュリティと充実したインフラ環境(安定した電源、高速インターネット接続など)が利用できる点も大きい。

 加えて、ニャチャンを選んだ大きな理由となったのは「人材の特性」だ。ニャチャンは、ダナンと並ぶベトナムの2大リゾート地の一つ。サービス業での勤務経験を持つ人材が多く、「夜間や休日の勤務に対する抵抗が少ない」と藤岡氏は指摘する。ハノイやホーチミンのような都市部のIT人材は、一般的なオフィスアワー(9時-17時)での勤務を希望する傾向が強い。一方、観光都市であるニャチャンには、ホテルや観光施設など24時間稼働のビジネス土壌がある。そのため、シフト勤務や夜間対応に対する心理的なハードルが低く、ライフスタイルとして受け入れられやすいのだ。このリゾート地ならではの人材特性は、24時間365日の運用体制を敷く上で有利に働くと判断できた。

 また、ハノイやホーチミンといった主要都市は、コスト増や環境問題を抱えている。特に空気環境は悪く、大気汚染のワースト首都として挙げられることも少なくない。「ベトナムの中でも住みやすい都市であり、将来的な成長が望めるポテンシャルの高さに期待している」と藤岡氏は述べる。

 実際、現状のニャチャンは、IT企業間の競争は激しくない。「ニャチャンには、IT企業がほとんどありません。日本企業もいないのは、拠点としてユニークだと思いました」と藤岡氏。ニャチャンにいち早く進出して確固たる拠点を築ければ、日本のIT企業として存在感を示せるだろう。

次のページ
「日本品質」をベトナムで再現する 立ち上げの工夫は?

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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