AIが招いた大規模エンジニアレイオフの影響とIT採用市場の最新動向:打開策は“自組織らしさ”の確立?
第3回:優秀なDX人材に選ばれ続ける組織が実践する「ブランディング戦略」とは

連載「DX人材難のIT部門に捧ぐ『優秀な人材と自部門のマッチング法』」では、優秀とされるDX人材がどのような視点で転職する企業を選んでいるのかといった“採用”の視点から、自部門とDX人材のマッチング率を高める具体的施策を解説。DXを担当するDX部門やIT部門で人材採用に携わる、もしくは人材難に悩んでいる方に向けて、「採用」の視点からDXプロジェクトを成功させるヒントを届けます。連載最終回となる本記事では、AIがIT人材市場にもたらす影響と、その中で自組織が生き残るための具体策「ブランディング戦略」の立て方について解説します。
Microsoftの大規模レイオフに見る、AIによる採用市場の変化
多くの大企業でDXが中期経営計画に組み込まれ、その取り組みが計画・検証・組織化のフェーズを経て一巡した結果、企業によって成果の明暗が分かれ始めています。その成否を分ける一つの重要な要素が「人材」。特に優秀なDX人材の獲得競争は激化する一方です。本連載はこれまで、第1回で「DX人材が企業を見極める5つのポイント」、第2回では「DX人材に嫌われる求人票」を取り上げ、DX人材を自社で獲得するためのヒントとなる情報をお届けしてきました。これらを通じて、自社が優秀なDX人材に“選ばれる”ことがいかに難しいかを感じていただけたのではないでしょうか。
今、私たちはAIが採用市場に大きな変革をもたらす時代の最中にいます。労働人口の減少が続き、優秀な人材や希少な職種に就く人材は慢性的に枯渇するでしょう。AIの代替が難しい人材へのニーズは集中し、人気企業と不人気企業の二極化がさらに加速していくと考えられます。そこで、連載最終回となる本稿では、AI時代に自社が優秀な人材に選ばれるための「ブランディング戦略」について掘り下げます。
加速する二極化の背景:DX推進者の獲得競争
AIの台頭は、人材採用市場、特にIT・テクノロジー領域の人材採用市場に甚大な影響を与えています。2025年5月にはMicrosoftが約6,000人の人員削減を発表し、その一部プロジェクトではAIがコードの最大30%を記述していることが明らかになりました[1]。ブルームバーグの分析によれば、この人員削減の対象はソフトウェアエンジニアが多数を占めていることが分かっています[2]。
Intel、Cisco、Dell、Google、Metaといった主要IT企業も、AI分野への注力や事業再編を理由に大規模なレイオフを継続しています。2022年から2024年にかけ、世界のIT系企業で毎年10万人を超える大規模な解雇が続いており、2024年1月から8月だけでも410社が合計13万2900人をレイオフしています[3]。
このような状況下で、「ITエンジニア」全体の有効求人倍率は長らく高騰が続いていたものの、ここ数ヵ月は下降傾向にあります[4]。これは、特にコーディングに特化したジュニアエンジニアの仕事がAIによって代替される可能性があることを示唆しており、筆者も30社ほどの企業人事部門との情報交換の中で、ここ半年で特に新卒採用や中途採用におけるジュニア層の採用において「素養」の要件を見直し始めているという声を多く聞くようになりました。今後は、従来の設計フェーズやAIエージェントのマネジメント、生成コードのレビュー、AI前提の業務フロー設計など、より高度なロールを担える人材かどうかが採用の争点になっていくと予想されています。これにより、若手やミドル層の採用人数を減らし、シニアポジションの年収を上げるなど、採用ターゲットや組織評価を見直す企業も増えてきているのです。
DX組織においても、この流れは同様に進行しています。AIによりオペレーション領域の代替が進むことで、DX戦略の策定、プロジェクトの設計、推進、そして組織横断的な調整を担える人材へのニーズは一層激化するでしょう。マネジメント人材や高度なIT人材の獲得競争はさらに加速し、ハイスキル人材採用の難易度は一段と高まると予想されます。結果として“選ばれる企業”になることが、企業の採用活動においてこれまで以上に重要な意味を持つことになります。
[1] 出典 :『Microsoft laying off about 6,000 people, or 3% of its workforce』(CNBC、2025/05/13)
[2] 出典 :『Microsoft’s fired AI director to 6,000 laid off employees along with her: “These are people who…”』(Gadgets Now、2025/05/22)
[3] 出典 :『外資系企業のレイオフ情報まとめ(2022年後半~2025年)』(35ish、2025/05/02)
[4] 出典 :『転職求人倍率レポート(2025年6月)【最新版】』(doda、2025/07/24)
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武藤 竜耶(ムトウ タツヤ)
TECH PLAY Branding 事業責任者。インテリジェンス(現:パーソルキャリア)にて約4年間デジタル人材領域の採用支援を担当。その後デジタル人材領域の採用支援部門責任者として2年間部門立ち上げに取り組み、大手企業のDX組織採用体制コンサル、新会社立ち上げ組織支援、メガベンチャー大型採用戦略...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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