TBM、日本企業導入に向けての課題
今回のカンファレンスには日本企業も複数参加し、みずほファイナンシャルグループがTBMアワードを受賞するなど、国内での取り組みも注目を集めた。
参加した日本企業からは、現状の課題と今後の方向性について率直な声が聞かれた。「各事業に対するITの貢献度可視化が今後の課題であり、『プロジェクトからプロダクトへ』という考え方は取り組みの入り口になった」とエネルギー系企業の担当者は語る。また、大手製造業の参加者は「他社に比べTBMの取り組みが遅れていると感じていた。システムリストの整備や表面的なTCOの可視化に取り組んでいる現状だが、本質的に価値に対してどれだけコストがかかっているかを把握するには、インフラやデータ基盤なども含めたすべての関係性を細かく整備する必要があると改めて感じた」と述べた。
これらの声から浮かび上がるのは、データの整備と方法論の理解というふたつの壁である。IBM Apptio事業部長の塩崎英己氏は「日本ではTBMの方法論の普及がまだこれからの段階で、今回発表された内容とのギャップもあるが、今後浸透させていく中で確実に重要になる」と指摘する。今回発表された新技術は、データ整備の負担を軽減する可能性がある一方で、方法論の理解と組織への定着という課題は残る。
コミュニティの役割も重要になるだろう。TBMカウンシルジャパンは2025年にオープンコミュニティとして再始動し、会員数は現在470名で、当面の目標である500名に達しつつある。同団体マネージャーの吉田留美氏は「日本でも標準化の活動に貢献するメンバーも増えつつあり、教育と認定資格にも力を入れていく」と今後の展開を語った。方法論の共有と実践例の蓄積が進めば、導入のハードルは下がっていくはずだ。
AI時代を迎えTBMは、コスト削減から価値設計へ、そしてAI投資を含めたテクノロジー全体のポートフォリオ設計へと変化していく。テクノロジー投資を感覚ではなくデータとフレームワークで語るための共通言語として機能しようとしている。今回のカンファレンスで提唱された財務インテリジェンス(Financial Intelligence)のソリューションの構想は、日本企業がITとビジネスの関係を問い直し、投資の説明責任を果たすための一つの指針となるだろう。ただし、それは導入すれば自動的に価値が生まれるツールではなく、組織がどう対話し、何を選択するかという問いを突きつける仕組みでもある。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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