時価総額5兆ドルを一時突破したNVIDIA、強さの秘密は?──フアンCEOの鑑定眼とリーダーシップ
創業来トップの座に就き続ける“カリスマ経営者”から学ぶ、経営哲学の極意
15年前の“失敗”から学ぶ、カリスマCEOの経営哲学
堅調が続くNVIDIAだが、決して失敗とは無縁ではない。よく知られているところでは2010年代に参入したスマートフォン向けのSoCやモデム事業は、数年で撤退を決めている。NVIDIAの強みは性能で、このスマートフォン向けSoCやモデムでも性能では競合他社を上回っていた。しかし、スマートフォンでは性能と同時に電力効率を求められる。NVIDIAの製品は性能も高かったが、同時に消費電力も高くなってしまっており、ハンドセットメーカーの採用例はわずかにとどまり、数年後には撤退が決定されている。
ただし、NVIDIAが素晴らしかったのは、この失敗を潔く認めてスマートフォン向けのビジネスからすぐに撤退を決めたことだ。多くの企業では一度新しいビジネスを始めてしまうと、いろいろなしがらみなどにがんじがらめになってしまい、なかなか撤退を決断できない例は多い。しかし、NVIDIAはそこを素早く決断し、被害を最小限にとどめたと言える。その後、AIブームがやってきて、投資などをそちらに集中できたという意味でも、大きな決断だったと言えるだろう。
NVIDIAがそうした決断ができる企業であるのは、やはりカリスマ経営者たるフアンCEOの、強力なリーダーシップがある。今ではその名を知らない人はいないほどの巨大企業になっているのに、このように非常に身軽に見えるのは、リーダーのフアン氏の下にはフラットな組織が構築されており、リーダーの司令がきちんと末端まで行き渡るという組織になっているからだ。
フアン氏は同社の従業員と話をするときに、ビジネスが顧客にとってお金を払う価値があるのかを常に見極めるべきだと強調しているという。要するに、レッドオーシャンに突っ込んでいてそこで市場をかき回すことをするのではなく、将来性のあるブルーオーシャンを見つけてそこに経営資源を突っ込み、他社と明確に差別化できる製品を作って投入する、それがフアン氏の経営哲学だと言える。
CUDAとGPUはその代表例と言え、そうした経営哲学が今のNVIDIAを作っている……多くのNVIDIAの従業員はそう考えており、だからこそフアン氏はカリスマなのだ。
次はAI推論市場の覇権を狙う コストと消費電力の削減が課題
NVIDIAにとって次のチャレンジは、AI推論向けの半導体市場でも王者になることだ。AI向けの半導体市場は、大きく学習と推論に二分される。学習はAIモデルにデータを読み込ませるプロセスで、推論はその学習済みのAIモデルを利用して処理を行なうプロセスだ。前者はOpenAIやAnthropic、GoogleなどのAIモデルを開発する企業向けのニーズで、後者はSaaSベンダーなどがAIアプリケーションを展開するためのニーズになる。これまでAI向け半導体と言えば、ほとんどは学習ばかりが取り上げられてきたが、今後は推論の市場が学習を上回るだろう。
こうしたAI学習向けの市場ではNVIDIA GPUが圧倒的であることは今後も変わらないだろうが、推論に関してはどれが王者になっていくのかはまだ見えていない(現状はCPUとGPUが混在している状況)。推論市場では、学習よりもコストがさらに重視される市場で、初期投資と消費電力が課題のNVIDIAにとっては、そこでも市場を押さえられるかどうかは不透明である。
今後、AWS、Google Cloud、Microsoftなどが提供するGPU代替のAI専用チップやCPUなどのライバルと競争して、市場シェアを学習と同じようにしていくことがNVIDIAの目指していくところとなる。
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- この記事の著者
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笠原 一輝(カサハラ カズキ)
1994年よりテクニカルライターとして活動を開始。90年代はPC雑誌でライターとして、2000年代からはWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIやB...
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