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冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス

選挙への介入だけではない「誤情報/偽情報」問題 4つの対策、ガートナーのアナリストが提言

『真実なき世界』で企業が生き残るためには

「誤情報/偽情報」から企業活動を守るための4つの方法

 何が真実かそうでないか、判断に確信が持てなければ、深刻な問題に直面しても対策を考えることすら難しい。米ジョンズ・ホプキンズ大学の研究によると、人々がコロナウイルスのワクチンを接種しなかったことで、2021年に米国経済がどれだけの損失を被ったかを分析したところ、推計結果は“1日あたり”で5000万~3億ドルに上った。年換算すると、莫大な金額になる。誤情報や偽情報が世界経済に与える影響は、それほどまでに大きい。

 「ものづくりのサプライチェーン」の分断が関係者に経済的損失をもたらすように、「偽情報のサプライチェーン」を分断することで、攻撃者の意欲を減退させることができる。その意味で、2つのサプライチェーンを理解することが重要だ。アロン氏は、この問題を解決する4つの方法を紹介してくれた。1つ目は、法制度対応を強化することだ。ディープフェイクの作成方法、個人の心理データやAIの利用方法などを規制することが考えられる。

 2つ目はスタートアップが提供する、新しいテクノロジーツールを利用すること。Gartnerの調査では、過去4年間でベンチャーキャピタルが誤情報/偽情報にかかわる問題の解決を支援するスタートアップに75億ドルを投資したことがわかった。その投資対象は、ディープフェイクを特定するテクノロジー、偽情報が含まれたテキストを特定するテクノロジーなど多岐にわたる。これらはChatGPTやClaudeの出力パターンの解析、ソーシャルメディアにおけるメッセージの拡散パターンの解析を応用したテクノロジーだという。

 3つ目は教育であり、これが最も重要だとアロン氏は強調。ケンブリッジ大学で開催されたCambridge Disinformation Summitに同氏が参加したとき、印象に残った発言を紹介してくれた。それは「ある人にディープフェイクを見せた後、それが真実ではないと指摘しても、それはその人の脳に記憶として定着してしまう」というものだ。このように無防備なままでは対処が難しいが、少なくとも偽情報を見分ける方法や批判的思考のトレーニングを事前に受けることはできる。こうしたトレーニングなどは効果的というエビデンスもあるという。だとすると、それぞれが偽情報から身を守ることができるように準備をしておきたいところだ。たとえば、英国では銀行取引をする際、金融詐欺に注意するようにと警告が出る。これは「マイクロラーニング」と呼ばれる手法で、偽情報の問題についても同じような学びの機会を提供することが有効だ。

 最後は「ナッジ」と呼ばれる手法である。強制や経済的インセンティブの供与なしで、偽情報の拡散を抑制することを指す。具体的な方法はまだ模索が続いているが、これら4つが偽情報から社会を守るための方法になる。

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サイバーセキュリティの延長線上にはない「偽情報」問題

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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