日本電気(以下、NEC)とIFSは2026年1月16日、日本の重要産業における基幹システムのモダナイゼーション促進を掲げ、日本市場に向けたIFSのクラウドサービス展開と、産業用AI開発に関する取り組みを開始。それにともない、都内で共同記者会見を行った。
両社は既に30年来のパートナーとして、約200社以上の日本企業に対しIFS製品の導入を手掛けてきた。今回、その協業体制をさらに強化する形となる。
主権・セキュリティが保証された、「日本のための」モダナイゼーション
IFSは、製造、航空宇宙、エネルギー、防衛、公共などといった特定のミッションクリティカルな業種に対し、産業特化型のクラウドプラットフォームを提供する企業である。ERP、EAM(企業資産管理)、FSM(フィールドサービス管理)のソリューションを単一のプラットフォームで提供し、米国海軍(United States Navy)などでも導入されている。設計からアフターサービスまで、製品ライフサイクルの一元管理を実現できる点が強みだ。日本では製造業を中心にERPの導入が先行して進んでいるが、今後はサプライチェーンマネジメントの需要を背景に、EAMやFSMでもシェアの拡大を図っていく狙いだ。
上述の通り、特定の産業に特化している点がIFSの独自性であり優位性である。NECで副社長を務める吉崎敏文氏は、日本の重要インフラを支える組織の大部分で、レガシーシステムや技術者不足、メンテナンス要員不足が大きな課題となっている点に言及した。
「加えて、昨今のランサムウェア攻撃被害に代表されるように、多くの組織でソフトウェアのバージョンアップができていない、レガシーシステムの脆弱性が露呈したままになっているといった問題が社会にも大きなインパクトをもたらしています」(吉崎氏)
両社が掲げるのは、レガシーシステムからの脱却に代表されるインフラのモダナイゼーションだけでなく、アプリケーションも含めた「“真”のモダナイゼーション」だ。吉崎氏は今回の協業について、「30年間パートナーシップを培ってきた最強のタッグによる、新たなモダナイゼーションの加速を意味する」と述べた。
協業の具体的な中身として、まず国内データセンターにおける基盤の構築が挙げられた。安全保障にともなう主権確保のニーズに応えるべく、「IFS Cloud」のクラウド基盤構築を国内で進めていくとのことだ。データセンターの所在は明らかにされなかったが、昨今の製造業、インフラ業で需要が見込まれている各拠点・工場などでのリアルタイム処理や分散型データセンターの要求にも応えられる基盤の整備を進めていく方針だという。
また、この基盤を活用した日本市場向けの独自マネージドサービスとして、「IFS Cloud Kaname(カナメ/要)」の展開も発表された。「データを日本国内で保管・処理・バックアップし、日本の法律やコンプライアンスの枠組みに基づいて管理できる環境を提供する」と、IFSジャパン 代表取締役社長の大熊裕幸氏は語る。
IFS Cloud Kanameは、IFSとNECによる共同開発で生まれたサービスだ。そしてNECは、自社をゼロ番目の顧客とする「クライアントゼロ」として、サプライチェーン管理やDXなどにおける導入効果や活用可能性を検証し、そこで得た知見や成功ノウハウを独自アセットとして日本の顧客向けに提供するとのことだ。

加えて、IFSが提供する産業特化型AIサービス「IFS.ai」と、AIエージェントプラットフォーム「IFS.Loops」に、NECのAI技術を組み合わせて提供することも発表された。IFSのエージェント群は「デジタルワーカー」と呼ばれ、先述したような産業の現場で様々な仕事・役割を自律的にこなし、従業員と一緒に現場体験を変革できるという設計になっている。既に200以上のユースケースを有する。ここにNECの「自動交渉AI」を組み込み、サプライチェーンにおける納期や数量の交渉・調整といった工程の自動化を実現するようだ。
NECの森田隆之CEOは、日本の製造・重要インフラが世界と比較してモダナイゼーションで遅れていた理由の一つとして、「今までセキュリティの部分で徹底した安心感を得ることができていなかった」との見解を述べた。IFSと30年間にわたり製品を展開してきたが、そのほとんどがオンプレミスだったという。
しかし、今やクラウド環境への移行は避けて通れない。NECによるIFSの導入支援により、データや運用の主権、さらにはセキュリティが保証された中でクラウドへの移行を完了し、今後登場する最新テクノロジーを自動的に取り込んでいける環境を構築できると森田氏は自信を見せた。
IFSのマーク・モファットCEOも、日本向けに設計された安全なクラウドサービス基盤を提供する点を強調。「ミッションクリティカルな環境でもAIを安全に、かつ大規模に利用できる環境を実現する」と述べた。
これは、日本の産業・サプライチェーン構造を変える挑戦になる
会見後、NECの吉崎氏はこの取り組みについて、「単なる大企業のIT刷新ではなく、その関連企業やグループ企業、さらには取引先に至るまで、サプライチェーン全体のモダナイゼーションを進めていく挑戦になる」とし、IT環境の変革を起点に、製造業や重要インフラ産業全体の構造改革、ビジネスモデル改革を後押ししていく意気込みを語った。
また、IFSでアジア太平洋・日本・中東・アフリカ地域を統括するハンネス・リーベ氏は、会見後のインタビューにて、今回の協業拡大に至るまでに両社の間で入念な準備が進められてきたことを明かした。ここ1年で両社による会議は300、あるいは400回以上、さらにはエンジニアリングからテクニカル、コマーシャル、セキュリティに至るまで、各チームがグローバル規模の協力体制で取り組んできたという。
今回の取り組みは、単にソフトウェアを販売するのではなく、クラウドインフラを共同でデリバリーし、サービスを提供するものだ。そのため、日本語で十分な支援を行える体制も両社で実現したという。そしてIFS側は、日本法人だけでなくグローバルのR&D組織全体がこの取り組みに関わっているとのことだ。防衛などの分野では、各国の軍・防衛機関で導入実績と知見を持つIFSの力が不可欠となるからだ。
苦労した点としては、IFSのグローバルテンプレートを日本の法律や規制に適合させることが課題だったという。取り組みの開始と同時にこれらを完璧に遵守した状態でサービスを提供できるよう、時間をかけて定義を行ってきたようだ。
ミッションクリティカルな業界に対し、クラウドインフラへの移行を促す啓発活動も重要となるだろう。リーベ氏はポイントとして、単にクラウドインフラの優位性や利便性を押しつけるのではなく、これが「日本のためのインフラである」ということをメッセージとして伝えていきたいと語った。
基幹産業へのAI浸透にも、IFSのプラットフォームが入口となる
吉崎氏は、この取り組みが産業やサプライチェーン全体の構造改革につながることを述べていたが、AIはスムーズに浸透していくだろうか。業界の特徴として、コストやリスクの面で導入を躊躇している企業も少なくはないだろう。また、サプライチェーンの構成要素である地方企業や中小企業の中には、AIネイティブな管理への移行に高いハードルを感じる組織もあるかもしれない。
これについてリーベ氏は、IFSはAI導入のレベルとして様々な入口を用意しており、中小規模の企業でも低コストかつセキュアな環境で産業用AIを使い始められる点を強調した。まずはIFS Cloudに標準搭載されたAIを使ってみて、次第に自律型のエージェントを導入してみるといった段階的なアプローチも可能だという。
「近い将来、どれほどエージェント型AIを組織の中で導入し、協働できているかが効率性を左右するでしょう。それは強靭なサプライチェーンの実現・維持や、企業・国家の競争力に直結します。IFSのエージェント型AIである『デジタルワーカー』は、IFS以外の既存システムとも連携が可能です。導入のハードルは非常に低く、セキュリティも保証されていますので、安心してAI導入への第一歩を踏み出していただきたいです(リーベ氏)
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
2021年より事業変革に携わる方のためのメディア Biz/Zine(ビズジン)で取材・編集に携わった後、2024年にEnterpriseZine編集部に加入。サイバーセキュリティとAIのテクノロジー分野を中心に、それらに関する国内外の最新技術やルールメイキング動向を担当。そのほか、テクノロジーを活用...
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