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冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス

ガートナー 一志氏に聞く、日本企業のデータ基盤整備の落とし穴 「データ活用」から「AI活用」へ進めない制約の存在とは?

ガートナージャパン 一志達也氏インタビュー

 AIエージェント元年と呼ばれた2025年。日本企業の経営者の関心は、データドリブン経営からAIエージェント活用に移ったかに見える。現状とデータ&アナリティクス市場の最新動向を踏まえ、ビジネス価値を最大化のために今やるべきことを考える。

ガートナージャパン株式会社 リサーチ&アドバイザリ部門 バイス プレジデント チームマネージャー 一志達也氏

日本企業のデータ基盤の整備、何が問題か?

 まず、日本企業のデータ基盤の整備状況を尋ねたところ、「ほとんどがあるべき方向に進んでいない」とした。データ基盤を整備しようとする人たちは、「データの民主化」を掲げて活用促進に取り組んできた。それが、つまりAIをよりよく活用し、ビジネス成果を出すための「AI-Ready」に看板をかけ変えなくてはならなくなり、方向修正の必要性に気づいていないのだという。何のために誰がどんなデータを必要とするか、その棚卸しが必要な点は看板の掛け替えでも変わらない。それなのに、なぜ見直しが必要になるかと言えば、「データの民主化」と「AI-Ready」では、有用なデータ基盤が異なるためだ。

 「データの民主化」の場合、ユースケースが社内のデータ活用に重きを置くもので、社内のどこかにあるデータを使って答えを出せることがほとんどだ。基幹システムのデータの場合、わざわざコピーして手元に持ってくる必要はない。データを加工して作る場合は、さすがにエンドユーザーにデータを提供するための環境が必要になる。データウェアハウス構築では、エンドユーザーからどんなクエリが来るかをあらかじめ想定してのデータパイプラインを設計する。その設計が面倒だからと、業務システムのRDBMSのデータを全部コピーし、データレイクに集約することは無意味だ。

 データレイクが生まれたのは、数十万台のサーバーを運用しているNetflixやYouTubeのように、1人ひとりのユーザーの好みを理解し、コンテンツのレコメンドを行うには、すべてのサーバーからログファイルをコピーし、一カ所に集約する作業環境が必要になったためだ。B2Cサービスを提供しているわけではない企業が、単に構造化データを集約する場所を、データウェアハウスからデータレイクに置き換えることに意味があるか。「この5、6年、私が反発されても言い続けてきた間違いだらけのデータ基盤のことを、『データのコピペ』と呼んできた」と述べ、一志氏は問題を指摘した。企業は「データの民主化につながる」と考えて数億円規模の資金を投じて、データ基盤を整備した。しかし、データをコピペするだけの環境になっていて、ビジネス成果を得られていないのではないか。

 そこに生成AIブームが到来した。社内でエンドユーザーに「データを使ってください」と言い続けてきたが、使ってもらえていない。人間が使ってくれないデータを、AIエージェントに使ってもらうことは可能なのか。ビジネスユースケースを特定し、それに基づきデータパイプラインの設計をしないのであれば、「データを使ってください」から「AIを使ってください」に呼びかけを変えても状況は変わらない。

AIエージェントのためのデータ基盤とは?

 設計不在のデータウェハウス構築を見直すことにも限界が来ている。というのも、現在進行形でビジネス環境が大きく変化する中、経営者が今まさに必要としている意思決定の材料となる情報が、データウェアハウスの中にはないためだ。「事前に必要なデータを格納しておくので、どんなデータが必要か、一緒に考えさせてください」というアプローチが、現在のスピード感が求める要件にも合わない。一部の企業は、内製化にシフトして人材育成に投資し、「大丈夫です。うちには優秀なデータエンジニアチームのメンバーがいます。データサイエンティストやデータアナリストがあなたをサポートできます」でしのいできた。このやり方は有効に見えて、チームのキャパシティに依存するため、それ以上を超えると対応できなくなってしまう。

 解決方法として期待されているのはAIだ。人間のできないところをAIにカバーしてもらおうという発想は理解できる。「AI-Readyなデータ基盤を整備する」、アイデアとしては悪くないように思える。しかし、「どのAIにとっても有用なデータ基盤はまだ存在しない」と一志氏は指摘する。今までのデータ基盤と何が違うか。まず、エージェントが業務遂行で必要なデータは個々に異なるため、権限付きアクセスを確保しなくてはならない。例えば、「有給休暇は年に何日取得できますか?」「有給休暇の残り日数はいつ更新されますか?」など、人事部のエージェントを構築し、社員からの問合せに対応してもらうとする。AIが正確に対応するには、人事部の情報にアクセスできるようにする必要があるが、経理部の情報へのアクセスを許さない制御が必要になる。

 また、非構造化データの重要性が高まる。人事エージェントの例で言えば、規程類と過去のQ&Aの履歴を学習してもらう必要がある。例えば、SAPデータを参照する必要があるとしたら、MCPサーバー経由でアクセスできる権限をエージェントに付与すればよい。構造化データ中心の「データのコピペ」環境がなくても、エージェントは動ける。結局、AI-Readyなデータ基盤とは、多くが連想する既存のデータ基盤の延長線上にはない。

最優先はビジネスユースケースの特定

 「自社のビジネス価値創出に貢献するAIを作りたい」というビジョンを抱く人たちは、莫大な研究開発投資に見合うAIを本当に作れるのか。ケースバイケースだが、「投資できる」とする企業もあるだろう。実際に挑戦している企業として、一志氏はPalantirの名前を挙げる。軍事作戦では、非常に複雑なパラメーターを基に迅速な意思決定が求められる。AIの軍事利用の是非はさておき、事前定義済みのデータを前線に提供しても意味がない。同社の場合、オントロジーと呼ばれる、AIがデータの意味を理解できるようにする仕組みを構築している。これは人間の情報収集からデータの整理、意思決定の材料を作るプロセスを学んでもらい、AIが人間の代わりに動くようにする仕組みだ。

 日本企業がこの仕組みをそのまま模倣できるかはさておき、一志氏はガートナーが提唱するデータファブリックは同じことができる仕組みと話す。データファブリックが目指している姿は、AIが企業内にどんなデータがあるかを理解し、刻々と変化する状況に柔軟に対応する。そのためのデータを準備し、必要な時に利用できるようにする。そんなAI基盤の構築は非常に難しい。Palantirでも時間をかけ、膨大な投資をして構築した。

 「どんな質問にも回答できるようにとなるとAGI志向になるが、そうではない。ある程度機能を絞り込めば、実現の可能性が高まる。だからターゲット領域を決め、ユースケースを特定した上で、まずはそこだけ実現できれば成功と割り切る」と、ビジネスの問題意識からのユースケース特定を優先するべきというのが一志氏の考えだ。とはいえ、これは優秀なビジネスコンサルタントでも難易度の高いアプローチであるため、多くの日本企業は従来の延長線上でデータ基盤を整備する発想になるし、ベンダーも求めに応じて基盤構築の事例を紹介しがちなのが現状である。

 AIネイティブな新しいベンダーが出てきているとすると、ビジネスユースケースベースで、「私たちのAIはあなたの仕事にこのように役立ちます」と明確に言えるものを提供しているはずだともいう。現時点では、士業の人たちをサポートするペルソナが明確なAI、あるいは作業を手伝うAIが典型例である。前者は業法の壁があるため、国内におけるビジネス展開の可能性は未知数である。後者のPC作業を手伝うようなAIは有能さを発揮できているように見えて、活躍は企業内のデータを学ぶ必要のない範囲にとどまる。企業のビジネスに役立つAIを機能させるには、まだ高い壁がある現状と言えるだろう。

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2025年に起きた地殻変動、その後の動向が注目されるデータマネジメント市場

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/24062 2026/04/13 09:00

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