BtoB SaaSは死ぬのか?生き残るのか? AIエージェント時代のアプリケーションビジネスの未来
「SaaS is Dead(SaaSの死)」を考える
「製品アーキテクチャ」に見る、破壊的変化(ディスラプション)
ナデラ氏の主張「ビジネスロジックはAIレイヤーに集約される」に対抗し、大手SaaSベンダーは、AIエージェントが組織に普及する時代の到来に備え、それぞれが製品アーキテクチャーを見直しはじめた。これは既存のソフトウェア企業にとって初めての経験になる。というのも、パッケージアプリケーションの提供からクラウドファーストへの戦略転換に成功した企業でも、これまでは「3層アーキテクチャ」を維持することができたためだ。しかし、AIファースト戦略では、現状維持が許されない。
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新しいアーキテクチャの特徴は、“中間層が増える”ことだ。ナデラ氏が指摘したように、ビジネスロジック層が担っていたルールベースでの判断は、既に推論エンジンへと移転しはじめている。ただし、すべてがAIエージェント層に移行するわけではない。AIエージェントに任せられない法規制対応、監査要件、セキュリティポリシーなどのルールは、従来同様にコードとしてビジネスロジック層に残る。また、UI層も人間の判断が必要な場面を考慮し、残ることになるだろう。
では、AIエージェント以外の中間層が出てきたのはなぜか。端的に言えば、人間中心の設計からAIエージェントがより動きやすい設計にするためだが、その必要性をSaaSベンダーに認識させてくれた存在として、2つの標準プロトコル「MCP(Model Context Protocol)」と「A2A(Agent to Agent)」を挙げておきたい。
まず、2024年11月にAnthropicがリリースしたMCPは、AIエージェントが外部サービスに接続できる標準規格として開発されたものである。2025年に主要SaaSベンダーによるMCP対応が相次いだのは、既存顧客の投資を保護すると同時に、AIエージェントから“自分たちが見えなくなる”リスクを回避するためと解釈できる。
さらに、2025年4月にGoogleがリリースしたA2Aは、エージェント同士での結果の受け渡しを可能にするもので、異なる企業のエージェント間連携を実現するものだ。たとえば、自社の調達エージェントとサプライヤーの販売エージェント、日本企業のエージェントと欧州や米国企業のエージェントとの連携が可能になる。
また、データ層の設計も変えざるを得ない。たとえば、新しい中間層として、ビジネスロジック層とデータ層の間に「セマンティックレイヤー」が加わる可能性がある。これはAIエージェントがタスクを遂行するとき、指示内容に含まれるビジネス用語の意味を正しく解釈し、正確なSQLクエリに変換するためのもので、データ層においてもアクセス制御のような設計の見直しが必要となるだろう。この他、コンテキストレイヤー、ガバナンスレイヤー、オブザーバビリティレイヤー、認証レイヤーなど、標準化に向けて議論されている領域があり、大手SaaSベンダーのAIファーストに向けた変革は2026年に入ってからも進行中である。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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