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SaaS企業の資金調達額は年々減少──ログラス・マツリカ・TOKIUMは「SaaSの死」にどう立ち向かうのか

 2026年5月26日、ログラス・マツリカ・TOKIUMは「急成長スタートアップは『SaaSの死』をどう捉えるのか」をテーマとしたメディア向け発表会を開催。ニッセイ・キャピタル 投資部 シニアキャピタリストの伊藤佑将氏がゲストに登壇したほか、3社の財務・経営戦略責任者がAI時代におけるプロダクトの優位性や今後のエクイティストーリーの描き方について語った。

(左から)株式会社TOKIUM 執行役員CFO コーポレート本部長 西山希氏

株式会社マツリカ 経営企画室 室長 佐藤風太氏

株式会社ログラス 取締役 執行役員CFO 伊藤駿氏

 前半では、ニッセイ・キャピタルの伊藤氏が登壇し、国内外における「SaaS is Dead」を巡る市場概況の振り返りと、それにともなうベンチャーキャピタル(VC)の投資方針の変化について発表。同氏は、日本の国内未上場マーケットへの波及について次のように語った。

 「SaaSというラベルを貼るだけで高い評価が得られる時代は、生成AIの登場以前、すでに2023年頃から終焉を迎えていました。国内の大型SaaS企業のIPOが相次いだ2019年頃から期待値が高まり、2022年頃に資金調達環境はピークを迎えました。当時はARR(年間経常収益)の成長率が最も重視され、多くの企業がPSR(株価売上高倍率)10倍を超える評価をされていましたが、調達後に成長が鈍化する企業が出始めたことで選別が強まったのです。

 評価軸はARR規模や成長率だけでなく、市場規模、競争ポジション、営業効率、Rule of 40などへと広がっています。さらに現在は、従来SaaSが担ってきたUIや業務ワークフローの一部がAIエージェントに代替される可能性が浮上し、プロダクトの競争優位性がより厳しく問われています」(伊藤氏)

ニッセイ・キャピタル株式会社 投資部 シニアキャピタリスト 伊藤佑将氏

 ニッセイ・キャピタルの調査データによると、国内未上場SaaS企業の資金調達額は2022年の2600億円(530社)をピークに、2023年は1639億円(414社)、2024年は1842億円(381社)と推移し、2025年には1374億円(299社)へと減少している。この未上場企業の評価下落は、上場SaaS企業の時価総額の下落と約1年のタイムラグをともなって連動しているという。

 このような構造変化に対し、同社では生成AIを「インターネットやスマートフォン、クラウドに続く産業構造の変革(ビッグウェーブ)」として捉え、投資方針を更新している。投資判断において最も重視するのは「生成AIとの距離と時間軸」だ。生成AIによって市場が広がる領域、導入を支援する領域、組み合わせて価値が増す領域には積極的に投資する一方で、AIに代替されやすく優位性が薄れる領域への投資には極めて慎重になっているとした。

 伊藤氏は最後に、AI時代に生き残るスタートアップの条件を3点提示した。

  • 変化を捉えた事業戦略の再定義:既存の事業モデルに固執せず、AI前提で自社の立ち位置を再定義できること
  • 失われにくい競争優位性:単なる単一機能のSaaSではなく、顧客接点、独自データ、深い業務理解、ワークフローへの組み込みといった強みをもつこと
  • 資本市場からの逆算:IPO時やExit時から逆算し、収益性や営業効率、AIによる防御力を含めたストーリーを描けること

 発表会後半では、ログラス 取締役 執行役員CFO 伊藤駿氏、マツリカ 経営企画室 室長 佐藤風太氏、TOKIUM 執行役員CFO コーポレート本部長 西山希氏が登壇し、パネルディスカッションが行われた。ディスカッションでは、各社の立ち位置を踏まえた「SaaSの死」に対する三者三様の認識が示された。

テーマ①:「SaaSの死」に対する各社の見解/SaaSの死で淘汰される会社の条件

西山希氏TOKIUMとしては、これまでの延長線上にある「ピュアなソフトウェアを提供するだけのSaaS」という意味であれば、そのモデルは死ぬ、あるいはすでに死に始めていると考えています。背景には、やはりAIエージェントの進化による開発・製造コストの劇的な低下があります。従来であれば、歴史のあるSaaSベンダーが何年もかけて構築してきた機能やUIが、今や出来立てのAIスタートアップでも、LLMを活用して短期間で似たようなものを実装できるようになってきています。

 つまり、プロダクトの機能そのもので差別化し、高い月額利用料を安定的に稼ぐというSaaSの方程式が崩壊しつつあるということです。我々は昨日、新事業として「AI agentic BPO」の提供開始を発表しましたが、これからは単にシステムを提供するのではなく、AIエージェントと人のリソースを組み合わせて、お客様の業務そのものを丸ごと自動化して完了させる(=成果を提供する)ビジネスへのシフトが必須になると考えています。

佐藤風太氏SaaSの死について、マツリカは「会社による」と考えています。なぜなら、AIによって「脅威を受けやすいプロダクト」と、むしろ「価値が拡張されるプロダクト」の二極化が進んでいるからです。シンプルに言えば、人間の作業を効率化するだけの「シンプルなツール」としてのSaaSは、西山さんがおっしゃる通り、AIエージェントに直接代替されるリスクが非常に高いです。しかし、企業の基幹的なデータや、現場の深いワークフローが組み込まれた「System of Record(記録のためのシステム)」としての側面を持つSaaSは、そう簡単には死にません。

 たとえば、営業現場の顧客接点データや行動履歴が正しく蓄積されているプラットフォームは、AIが賢く動くための「燃料(データ)」そのものを握っています。単に「AIに代替されるか」を恐れるのではなく、自社が持つ独自のデータ基盤をAIによってどう進化させ、顧客の売上増(成果の創出)につなげられるか、という事業戦略を描けている会社は、むしろこの波に乗って成長できると考えています。

伊藤駿氏ログラスとしては、そもそもSaaSの死に関して「SaaSかどうかは論点ではない」と考えています。というのも、SaaSはあくまでベンダー側の提供形態やビジネスモデルを表した言葉に過ぎないからです。我々のお客様である企業の経営層やCFOにとって、そのシステムがSaaSであるか、あるいは別の形態であるかは本質的に重要ではありません。お客様が求めているのは、企業のデータや外部データを統合・分析し、迅速かつ的確な意思決定を行い、最終的に「企業価値を向上させること」です。

 我々は、MIXIとの共同プロジェクトをはじめ、生成AIを用いたFP&A業務の高度化にも取り組んでいますが、そこではSaaSという枠組みに囚われず、個別開発に近い形でのシステム提供やAIエージェントの現場組み込みなども行っています。AI時代において、ビジネスモデルがサブスクリプションなのか、あるいは別の形なのかという議論は枝葉の論点であり、お客様にどのような提供価値を出せるのか、そこから逆算してビジネスモデル自体を柔軟に変えていけばよいだけです。

テーマ②:「SaaSの死」を受けて、各社が描くエクイティストーリー

佐藤風太氏我々がサービスを提供しているCRM/SFAの課題として、「データが入力されない」ことと「溜まったデータが活用されない」という2点があります。前者の入力に関しては、AIによる文字起こしや自動入力によってかなり解決されてきています。ただ、本当に重要なのは後者の「溜まったデータをどう成果に変えるか」です。これまでの多くのSaaSは、効率化やプロセスの可視化、つまり「コスト削減」や「管理」の価値が中心でした。しかし、これからのAI時代に求められるのは「トップライン(売上)を伸ばす成果」への直接的な貢献です。

 マツリカでは、単にデータを溜める(System of Record)だけでなく、AIエージェントが「次にどの顧客に、どういう提案書をもってアプローチすべきか」という、受注率向上や商談創出に直結するアクション(System of Action)を自律的に行うプロダクト群を強化しています。エクイティストーリーとしては、単なる効率化ツールではなく「営業組織の成果を創出するプラットフォーム」として進化していく姿を提示しています。これによって、AIに単に代替されるだけのツールとは明確に一線を画すことができると考えています。

西山希氏TOKIUMが対峙している最大の課題は、経理のIT化やSaaSの導入が進んだにもかかわらず、現場の作業負担が依然として消えていないことです。経費精算システムを入れても、申請内容のチェックや差し戻し、領収書の突合といった人間の作業は残ったままでした。そこで我々は、「AI agentic BPO」という戦略をとることにしました。「TOKIUM AI経費承認」や「TOKIUM AI出張手配」などのAIエージェントが、プロスタッフ(人のリソース)と連携して、お客様の経理作業そのものを丸ごと引き受けて自動で完了させます。

 この戦略が描くエクイティストーリーの面白いところは、狙う市場(TAM)の定義が根本から変わる点にあります。これまでのSaaSは、ソフトウェアの予算を奪い合うビジネスでした。しかし、AI agentic BPOは、企業がこれまで派遣社員や従来のBPO会社に支払っていた人件費そのものをリプレイスしにいきます。IT予算の数倍から数十倍とも言われる人件費の市場を、高利益率なソフトウェア原価に近い構造でリプレイスしていく。これこそが、我々が資本市場に提示する「SaaSの死」の先にある新しい成長ストーリーです。

伊藤駿氏ログラスが扱う領域における最大の課題は、世の中のほとんどの企業において、経営管理や予実管理の重要なデータがExcelに固執し、属人化したまま散らばっていることです。Excelにデータがある状態だと、データ構造がバラバラで、実は最新の生成AIであっても正しく読み込んで高度な分析をすることができません。

 当社が提供している価値は、まず社内のバラバラなデータを統合し、AIが最も効率的に読み込んで処理できる状態を構築することです。その綺麗なデータ基盤の上に、「Loglass AI IR」をはじめとするAIエージェントを載せていきます。これによって、これまで人間が何日もかけて行っていた経営分析や議事録作成、シナリオ分析が、高速かつ高精度で実行できるようになります。

 我々が描くエクイティストーリーは、「CFOのAI参謀」となるプラットフォームの構築です。企業の経営データという意思決定基盤を握り、そこからAIがアクションを導きだす。これによって企業の営業利益率を向上させ、さらに精緻なIR・財務戦略によって資本コストを下げる。SaaSという枠組みを超えて、企業の「時価総額を直接的に上げるためのインフラ」へと進化していくストーリーを、我々は数字とプロダクトで証明していきたいと考えています。

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奥谷 笑子(編集部)(オクヤ エコ)

株式会社翔泳社 EnterpriseZine編集部

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