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足掛け4年……運用現場でカバーしてきた根深い住所問題に革命を!日本郵便が仕掛ける「デジタルアドレス」

#12:日本郵便 郵便・物流事業統括部 担当部長 西郷佐知子さん

酒井 真弓[著] / 小山 奨太(編集部)[編]

 住所を7桁の英数字に変える「デジタルアドレス」。日本郵便が2025年5月に始めたこのサービスは、経営の号令ではなく、一人の社員の“不満”から生まれたという。形になるまで足かけ4年。失敗が許されない社会インフラを担う組織で、前例のない事業をどう通したのか。新しいことを始めたいすべての人に贈る、イノベーションの作法。

行き場を失った郵便物の山……住所変更にも即応する新サービス

 郵便局の隅に積まれた、行き場のないダイレクトメール。宛先の住所が古かったり、間違っていたりして届けられなかったものだ。これが全国に約2万4000ある郵便局で起きていると思うと、紙代、印刷代、郵送費……塵も積もれば相当な金額となる。

 「社会の無駄ですよね」。そう話すのは、日本郵便 郵便・物流事業統括部 担当部長の西郷佐知子さん。2025年5月に日本郵便が始めた「デジタルアドレス」の責任者だ。

画像を説明するテキストなくても可
日本郵便株式会社 郵便・物流事業統括部 担当部長 西郷佐知子さん

 デジタルアドレスは、都道府県から番地、建物名、部屋番号までを7桁の英数字に変換できるサービスだ。「〒100-0004 東京都千代田区大手町2丁目3-1 JPマンション301」が「ABC-12D6」といったように、扱いやすい一意のコードになる。

 おもしろいのが、デジタルアドレスは住所ではなく、日本郵政の共通ID「ゆうID」に紐づくという点だ。だから同じ家に住む家族でも、一人ひとりが別のデジタルアドレスを持てる。引っ越したときは、ゆうIDの登録住所を変更すれば、デジタルアドレスを変えずに済む。今後デジタルアドレスが使えるサービスが増えていけば、引っ越すたびに各サービスの住所を変更する手間が省ける。

 取得は任意だ。必要に応じて、デジタルアドレスそのものの削除や取り直しもできる。7桁の英数字に紐づいているのは住所だけで、氏名や電話番号は別のデータベースで管理されている。だから、デジタルアドレスから個人を特定されることはない。

画像を説明するテキストなくても可
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同じ住所でも表記が複数ある!?運用でカバーされている現状

 そもそも、なぜ住所をコードにする必要があるのか。

 私たちが普段何気なく使っている住所は、「霞が関/霞ヶ関/霞ケ関」や「3丁目1番1号/3-1-1」といったように、同じ場所を指しているのに何通りもの表記方法がある。それがいかにデータベース管理者泣かせかは、読者の皆さんなら釈迦に説法だろう。

 筆者は以前、デジタル庁が進めるアドレス・ベース・レジストリ(全国の住所や所在地に関する公式のマスターデータ)を取材し、住所を整備することの難しさを聞いた。日本には、住所を一元管理する機関がない。住所や所在地、建物の情報は、市区町村や法務局といったそれぞれの管理主体が、個別に保有している。しかも、住所の仕組み自体が二重だ。建物に振られる市区町村の「住居表示」と、土地の区画に振られる法務局の「地番」。この2つの併存が、住所をキーにしたデータ連携を難しくしている。日本の住所は、いわば運用でカバーされてきたのだ。

 だが、データ活用がビジネスの根幹になった今、そのしわ寄せが各所に現れている。

 たとえば保険会社。医療保険、がん保険、火災保険と商品が幅広く、契約を扱う代理店も多い。同じ人が複数の保険に加入していても、契約したのが別々の代理店なら、住所の書き方は一致しないことがある。「1-6-1」と「一丁目6番地1号」は、システムから見れば別の住所だ。氏名も同姓同名が珍しくない以上、同一人物であることの決め手にはならない。その結果、同じ人が別人として登録され、既に加入している商品の案内が届くといったことも起きている。

 住所の課題は、名寄せだけではない。かつての大きな屋敷が相続で分割され、戸建てが5軒10軒と建つと、住所は全部同じになる。同姓の世帯が複数あると、どこに配達すればいいのか判別できない。郵便やガス会社、訪問介護など、様々な事業者がこの「同一住所複数戸」に頭を悩ませている。

 国も手をこまねいているわけではない。デジタル庁は2025年6月、町字(ちょうあざ)データベースを無料公開した。全国の住所における町や字、丁目レベルの地名とコードを、統一的に整備したデータだ。住所をコード化する取り組みは段階的に進んでおり、2030年度には13億円程度のコスト削減効果を見込むという。

 国が住所そのものを整備し、日本郵便がその住所を扱いやすくするデジタルアドレスを提供する。AI時代を見据えた社会インフラの基礎が、官民の垣根を越えて、いま築かれようとしている。

 筆者がデジタルアドレスを初めて聞いたとき、「その手があったか……!」と静かに興奮した。当時は自宅兼オフィスだったため、契約だの手続きだの、毎回住所を平文で伝えなければいけないことに抵抗があったのだ。

 しかもこのサービス、トップが号令をかけて始まったものではない。社員が発案し、内製で形にしたものだという。日本郵便といえば、失敗が許されない社会インフラを担う企業であり、長い歴史があるがゆえ、DX難易度はMAXと聞いていた。そんな組織でイノベーションを起こした西郷佐知子氏とは、一体どんな人物なのだろう。

次のページ
育休中に直面した、度重なる住所記入の負担

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酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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