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足掛け4年……運用現場でカバーしてきた根深い住所問題に革命を!日本郵便が仕掛ける「デジタルアドレス」

#12:日本郵便 郵便・物流事業統括部 担当部長 西郷佐知子さん

酒井 真弓[著] / 小山 奨太(編集部)[編]

外様から組織に溶け込む、イノベーションの起こし方

 転職者や出向者が、歴史のある組織で新しいことを始めるとき、何を心がければいいのか。西郷氏のやり方からは、3つ読み取れる。

 一つ目は、新しい職場の文化ややり方を否定しないことだ。西郷さんは楽天時代、良いポジションで入社しても「この会社は意思決定が遅い」「進め方が古い」と言って去っていく人を何人も見てきたという。うまくいく人は逆で、まず会社を知ろうとし、その良さをどう活かすかを考えていた。どんな組織でもネガティブな要素なんかいくらでも見つけられるが、「否定は何も生み出さない」と西郷氏。

 二つ目は、その会社の強みや特性を上手く使うこと。住所を7桁の英数字に変換するなんて、公共と民間、双方の側面を持つ日本郵便だからこそ成立する事業だ。

 三つ目は、警戒されないこと。外から来た人は、それだけで身構えられることがある。きれいな経歴でいかにもデキる人という空気をまとっていれば、なおさらだ。西郷さんは、あえてその逆をいくキャラで勝負しているという。

 外から来た人間だからこそ見える伸びしろがある。だが、それを事業にするには、その人自身が組織に受け入れられ、協力を得られなければ始まらない。

電子決済のように当たり前になる時代が絶対にくる、そう信じて

 西郷さんは、これまでの歩みを年表でまとめている。住所を変えたチームとして、いつドキュメンタリー番組で取材されてもいいように、時系列で何があったか残しておこうと思ったのだと笑う。

 「デジタルアドレスが社会基盤として浸透したら、7桁の英数字で様々なことが便利になる。現金派だった日本で電子決済がここまで浸透したように、その時代は絶対に来る」(西郷さん)

画像を説明するテキストなくても可

 AIによって、住所の整備はより速く進むだろう。だが、最終目的はそこではない。大事なのは、整備した住所を何にどう使うかだ。たとえば災害時。避難所の外や車中で過ごす「見えない被災者」を把握する術は、今はない。避難先を住所として更新できれば、居場所が分かり、物資の提供もしやすくなる。

 「子どもに『お母さんはこれをやったよ』と言える仕事にしたい」と西郷さん。いつかその日が来たら、予防接種で嫌というほど住所を書かされたことがきっかけだと知って、「お母さんらしい」なんて思うかもしれない。

取材後記:“住所界隈”は沼?

 取材では、世界の住所事情についてもうかがった。

 米国はストリート制だ。基本的に道沿いに小さい番号から順に振られていくので、番号を聞けば、その道のどのあたりか見当がつく。英国では、郵便番号で建物をだいたい特定できる。たとえば「SW1A 1AA」はバッキンガム宮殿だ。

 一方、モンゴルには遊牧民が多い。彼らはゲルで季節ごとに移動しながら暮らすため、固定された住所はそもそも機能しない。インドのように、公式な住所を持たない人々が数億人規模で暮らす国もある。そうした地域では曖昧な目印を頼りに、配達員が電話で確認しながら荷物を届けてきたのだという。

 そうした国では今、住所よりも緯度経度に基づく位置コードのほうが役に立つ。モンゴルは、地球上を3メートル四方に区切る「what3words」を国家郵便に採用した。インドではGoogleの「Plus Codes」がデジタルの住所として普及しつつある。住所においても、一足飛びに最先端へ進むリープフロッグ現象が起きているようだ。

 従来の住所制度を経ずにデジタル位置コードを取り入れたのが、サウジアラビアだ。砂漠地帯が多く、通り名や番地の整備が遅れていたため、看板を立てる代わりにGPS座標をベースにしたコード体系を導入した。公式の「ナショナルアドレス」で使われる短縮コードは、アルファベット4文字と数字4文字の計8桁。この短いコードひとつで、行政サービスも荷物の配送も完結する。

 「世界中の住所をやっている人たちが集まって語り合ったら、みんな初対面でもかなり盛り上がるんじゃないかな。住所は沼です、本当に」と西郷さんは笑って話す。世界的にも難題とされる住所の革命にこれからも目が離せない。

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この記事の著者

酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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