営業時間外の問い合わせの6割をAIが受け止める
全国約100店舗でレンタルバイク「レンタル819」を展開するキズキレンタルサービスは、セールスフォース・ジャパン(以下、Salesforce)のAIエージェント基盤「Agentforce」で問い合わせ対応を自動化し、約6ヵ月で6,383件に対応した。そのうち61%は営業時間外に寄せられた問い合わせだ。専任エンジニアは置かず、担当者2名が週1回のペースで回答内容の改善を続けている。
Salesforceは2026年10月16日、Agentforceのユーザー企業を招いたプレス・アナリスト説明会を開いた。キズキレンタルサービスの大塚洋二氏(取締役社長)と、グループのキズキホールディングスでマーケティングを統括する原佐知子氏(マーケティング統括部長)が登壇し、導入の経緯と稼働後半年の数字を説明した。
AIエージェントの回答率は6ヵ月間で90%に達し、原氏によれば説明会前日の時点では93%まで上がっている。AIが対応を完結した5,745件に、電話対応の平均所要時間10分を掛けると約960時間になる。同社はこれを「人に戻した時間」としている。原氏は「これまで半日は閉まっていた窓口を、いまは24時間開けている」と成果をまとめた。
課題は「翌日にしか届かない返信」と回答のばらつき
キズキグループは約40年続く二輪車ビジネスの企業グループで、レンタル819のほか、バイク旅専門の旅行会社MOTO TOURS JAPAN、オートバイ販売と電動バイク事業を手がけるキズキの3社で構成される。レンタル819は今年でサービス開始から20年目を迎え、国内メーカーに加えハーレーダビッドソンやBMW、ドゥカティなど多ブランドの車両を貸し出している。
近年は訪日外国人の利用が増え、問い合わせは日本人とインバウンドでほぼ半々になった。一方、予約はオンラインで24時間受け付けていても、問い合わせへの対応は10時から17時の営業時間内に限られていた。時間外はメールのみの受け付けで、回答は翌営業日以降になる。大塚氏は「メールだとキャッチボールになる。一度返信しても新たな質問が来て、そのやり取りが1日ずつずれていく」と振り返る。
原氏が挙げたもう1つの課題は、回答品質のばらつきだった。同じような質問に、オペレーターがその都度同じ答えを返していた。「上手に答える人もいれば、情報が足りないまま答えてしまう人もいた。サービスの品質を一律にしたかった」と原氏は語る。
データ基盤を先に整え、その上にエージェントを載せる
同社はまず顧客基盤の整備からSalesforceの活用を始めた。予約を扱う基幹システムを中心に、Service Cloud、Data 360(旧Data Cloud)、Marketing Cloud、Marketing Cloud Personalizationを組み合わせ、Webサイト上の行動に応じたポップアップの出し分けやメール配信も運用している。以前は他社のMAツールを使っていたが、CRMを持たない構成だったため情報発信が一方通行になり、拡張には個別の開発が必要だったという。
「1つの製品に絞らなかったことに大きな意味があった。お客さまの情報を把握しながらメールを送ったり、Webでポップアップを出したりできるので、独りよがりの施策にならない」と原氏は話す。Agentforceの採用も、この基盤に蓄積した顧客データと対話履歴をそのまま使える点を評価したものだ。
従来のチャットボットとの違いを問われた原氏は、エージェントがある程度自ら考えて回答できる点と、問い合わせ内容や顧客情報をためる仕組みの中で動いている点を挙げた。ただし、2回目以降の問い合わせで過去の履歴を踏まえて答える機能はまだつないでいない。データはそろっており、今後接続する予定としている。
想定外の言い回しを週1回の手直しで埋める
Agentforceのステップ1として、2026年3月に多言語対応のFAQ自動応答エージェントが稼働した。対応言語は日本語、英語、中国語(繁体字)の3つで、自社サイトの対応言語とそろえている。立ち上げには、導入支援を受けて設計した130本の対応シナリオを用意した。
立ち上げ後に手間がかかったのは、想定した質問と顧客が実際に使う言葉のずれだった。たとえば利用期間の延長について、同社はFAQに沿った問いを想定していた。実際には「延長したい」「1日延長したい」など、表現はさまざまだった。原氏は「自然言語で質問されるので、想像しきれない。エージェントが答えられるように、お客さまの言葉の語彙を増やしていく必要があった」と説明する。
約6ヵ月で手を入れたシナリオは291本に上り、その半数以上は新規追加ではなく、こうしたずれを埋める修正だった。改善の中心を担うのは20代の社員2名だ。原氏は「全社を挙げて体制から変えようとしていたら、うまくいかなかったと思う。小さく始めて、やる気のある人に任せるのが一番のポイントだ」と語る。
ROIについて原氏は、現時点では売り上げで測る段階にはないとした。同社が示した計算では、運用に使った時間は2名・週1回で計12時間だった。これに対し約960時間分の対応を人に戻し、営業時間外の需要の61%を拾ったという。
「全部を任せない」役割分担、空いた時間は加盟店の支援へ
人とAIの役割分担について、原氏は「全部を任せないことが大きい」と言い切る。AIに任せたのは問い合わせ対応だけで、範囲は広げていない。「AIに改善の提案をしてもらうことはできるかもしれないが、その判断軸は人間にしか持てない。そこに人の時間を使う」と原氏は話す。
現在は問い合わせ全体の7〜8割をAIが受け、残りは電話で人が対応している。車両トラブルなどで電話を望む利用者は一定数いるほか、保険会社向けに事故時の代車を貸し出すサービスなど、AIに置き換えにくい業務もある。AIで解決できずに電話へ切り替わった場合は、チャットの履歴をすべて参照できる。
誤回答については、クレームにつながった例はこれまでないという。判別しにくい単語で質問された場合は無理に答えず、受付センターへの問い合わせを案内する設計にしている。
人員は減らしていない。大塚氏は「以前は繁忙期になると私も電話に出て予約を受けていて、スタッフ全員が自分の仕事をできていなかった」と明かす。今後は空いた時間を、全国約100店舗のフランチャイズ加盟店へのフォローに振り向け、各店の売り上げづくりを支援していく考えだ。
11月に予約サポート、2027年以降は旅の提案まで
ステップ2として、2026年11月には自然言語で予約を支援するAIエージェントを実装する予定だ。主に訪日客を想定しており、現在地を伝えると近くの店舗を提案するなど、Webサイトの検索機能では実現できていない案内を担う。「インバウンドの方に『関東』と見せても、どこのことかわからない。いる場所を言ってもらえれば、近い店舗を提案できる」と原氏は話す。
予約が増えた場合の店舗側の負担について、同社は先に貸し出しのフローを見直している。事前決済とタブレットでの電子署名に切り替え、貸し出しにかかる時間を約30分から約5分に短縮した。予約エージェントによるコンバージョン率の改善を見込むが、効果の試算はまだ出していない。
2027年以降は、目的地やルート、地元ならではの情報を案内するコンシェルジュのような役割をAgentforceに持たせる計画だ。旅行の手配を丸ごと任せたいといったニーズは、グループのMOTO TOURS JAPANにつなぎ、グループ内での相互送客につなげる。事故対応など保険会社との連携が必要な領域も、今後の対象に入る見通しだ。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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