利用者たちに混乱が巻き起こったJCOMの大規模障害──その原因から、忘れがちなBCPの観点を問い直す
突如サービスが使えなくなったユーザーたち……問い合わせの電話もつながらず、状況がつかめない事態に
「外部からの攻撃」と言うべきか、言ってよいのか
危機対応に際する情報発信には、もう一つ難しい問題がある。今回、JCOMは最終的に「外部から大量のアクセスがあり、DNSサーバに高負荷が発生した」と説明している。これに対し、一部のケーブルテレビ事業者では、一時「外部からの攻撃」と表現した後、その記述を削除し、「つながりにくい状況」といった表現に変更したことが確認されている。
これは、単なる言葉遣いの問題ではない。「サイバー攻撃」と表現すれば、利用者は当然、「個人情報は盗まれていないのか」「システムへ侵入されたのか」などといった悪意的な被害について心配する。しかし、大量アクセスによるサービス妨害が疑われるという段階と、侵入や情報漏えいまで確認される段階とでは大きな隔たりがある。また、サイバー危機では通常、事実が確定するまでに相当の時間がかかる。
だからこそ、「攻撃か、障害か」を早期に断定することよりも、確認できている事象を正確に伝えることが重要となる。一方で、関係会社ごとに表現が異なれば、「どの説明が正しいのか」という新たな混乱を生む。危機が複数の組織をまたぐケースにおいては、技術的な連携だけでなく、危機時の情報発信についても事前に共通ルールを持つ必要があるのだ。
最後は「人」が冗長性になる
2026年9月に起こった別の障害では、上記の問題が別の角度から示されている。その障害は、JR東日本スマートロジスティクスの多機能ロッカー「マルチエキューブ」において発生した。同サービスのシステム更新に起因する不具合によって、交通系ICカードで利用した場合には荷物の取り出しが可能だったものの、QRコードやクレジットカードで利用した一部の利用者は荷物を取り出せなくなるという事象が起こった。この障害の影響は、約1,500件に及んだという。同社はシステム改修と並行して、対象利用者に対する現地での駆けつけ対応や個別案内を行った。
ここで興味深いのは、最終的なバックアップとして「人」が機能している点である。駆けつけ対応では、実際に人が派遣されて対応にあたった。ITサービスでは、冗長性(スラック)という言葉は通常、サーバーやネットワークについて使われる。ネガティブな意味だけではなく、不確実性に対応するための余白といった意味をもつ。そして現実のサービスでは、機械が止まった際に人間が介入できること自体が一種の冗長性になる。駅、店舗、病院、大学など、物理的な現場が重要となるサービスでは特にそうである。
逆に、完全にオンライン化されたサービスは、人的な冗長性という代替手段を失いやすい。自動化を進めるほど効率は上がるが、非常時には人間が介入できる場所がなくなるという逆説も生まれるのである。
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野村 浩司(ノムラ コウジ)
株式会社インシデントテック 代表取締役
株式会社NTTデータ 経営戦略室事業戦略担当 シニアエキスパート
グロービス経営大学院 MBA(経営学修士) 修了金融システムの開発・保守・運用と改善を15年担当し、10年にわたり約2000件の障害事例を分析。システム障害...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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舟津 昌平(フナツ ショウヘイ)
経営学者
東京大学大学院経済学研究科講師
京都大学大学院修了、博士(経済学)京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、専門職修士(経営学)。2019年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。専門分野...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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