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中国ITレポート

日本企業がぶち当たる中国市場の3つの壁とは?

第2回


未成熟なビジネスインフラ

 周知のように、中国経済は急速な成長を遂げており、金融、交通、通信などの社会インフラ整備も急ピッチで進んでいる。総論的にいえば、中国進出企業にとってビジネスを展開しやすい環境が整ってきているといえる。

 しかし、具体的にビジネスを進めていくうえで、まだまだインフラ整備が未成熟な部分も残されており、それがビジネスの立ち上げや推進上の障壁となることも少なくない。以下、ECやコンテンツ配信等のネットビジネスにとって、極めて重要な2つのビジネスインフラである、(1)通信インフラ、(2)フルフィルメントインフラの現状と課題を見ていく。

(1)通信インフラの問題

 中国でネットサービスを展開したいと考える企業にとって、通信インフラの問題は避けて通れない問題である。一般に中国のインターネット回線は、ADSLがベースであり通信速度が遅い(都市部ではFTTH網の整備が進んでいるが、その都市部に急激に人口が集中し始めているため、結果的に都市部でも遅い)。また、携帯電話からのモバイルインターネットに関しても、ここにきて急速に都市部を中心に、高速通信が可能な3G規格の携帯電話が普及し始め、2011年5月時点で7,300万契約にまで伸びている*。

*出所:中国互联网络信息中心(China Internet Network Information Center)「第28次中国互联网络发展状况统计报告」(2011年7月)

 しかしながら中国全体で4億契約もある携帯電話のシェアから見れば、まだまだ3G規格の携帯電話普及率は低く、日本のような「携帯電話からのインターネット利用は当然」というようなイメージにはまだ遠い。

 また、中国でネットビジネスを行う際に避けて通れないのが「南北問題」である。これは、中国の固定通信網は、北部(北京や天津)をカバーする「中国联通(China Unicom」と南部をカバーする「中国电信(China Telecom)」の通信キャリア2社が提供しているのだが、両者間の相互接続性が十分でないため、エリアをまたいだ通信環境が悪化するという問題だ。日本をはじめ欧米では、回線事業者間、ISP間は互いに回線のピアリングを行うなどして接続遅延を回避するための工夫が計られているが、中国では十分に対策が行われていないと言われている。

 結果として、ユーザー自身が契約している回線事業やISP事業者以外が提供するサイトに接続をしようとすると、ただでさえ遅い通信回線が更に遅くなってしまい、セッションタイムアウトなどサイトにつなぐことができない不具合が生じる。

 ネットサービスを提供する企業としては中国国内のいかなるISP事業者、通信回線事業者からの接続に対してもアクセスを確保する必要がある。つまり、中国でユーザーにストレスのかからないネットビジネス環境を展開するためには、データセンターに中国联通と中国电信の2つの回線を引き込むこと、ISP間の接続を担保するために複数のISP事業者と契約するなど、通信インフラにおいてもさまざまな対策が必要である。

(2)フルフィルメントインフラの問題

 通信インフラの問題と並び、物流や決済などのフルフィルメント面でのインフラ整備状況も中国進出を考える企業にとって気になる点だろう。

 物流インフラに関しては、交通網の発達、物流業者間の競争促進等の要因により、近年急速に改善が進んでいる。EC等で利用される宅急便サービスなどでも、都市部においては翌日配送が珍しいことではなくなり、最近では時間指定などきめ細かいサービスも出現してきている。

 一方で、関係者に話を聞くと、配送途中に商品が破損・紛失する、名宛人とは違う人物が荷物を受け取ってしまう(荷物を渡してしまう)など、日本と比較すると、やはり配送にかかわるトラブルが多いようだ。また、内陸部の物流網整備も今後の課題である。

 次に決済についてだが、決済手段の整備という観点について言えば、大半のECサイトやコンテンツ配信サイトではクレジットカードをはじめ、代引き、第三者決済(後述)、プリペイドカードなど、多様な決済手段が用意されており、その点は日本や他の先進国とも変わらない状況である。もちろん日本企業が進出した際、これらの決済サービスを活用することも可能だ。

 ただし、より根源的な問題として、中国では消費者側の未払い、企業側の偽造品販売・詐欺などのトラブルが多く、消費者と企業の間の商取引、とくに互いの顔の見えないインターネット上の商取引に対する社会的信用が形成されていないということがある。このことについて、以前中国EC企業に勤める知人が「相互不信」という言葉で評していたが、中国における決済の問題を考えるときには、まずこの点を押えておくことが肝要だ。

 消費者は企業を信用していないため、先に決済するリスクを避けたいと考える。そのため、例えばネット上の決済においても、他国に比べてクレジットカードの利用率が低い。逆に、着払いなどの後払い方式の決済手段が好まれる傾向が強い。

 代引きと同じく、多くのユーザーが活用する決済サービスが「第三者決済」と呼ばれるサービスである。第三者決済とは、購入者が販売者に直接購入代金を支払うのではなく、第三者が仲介し、一時的に代金を預かる。その後、商品が購入者に届き、購入者が商品に問題がないことを確認し第三者に連絡すると、第三者機関から販売者に購入代金が支払われるという仕組みである(図)。購入者にとっては、第三者決済を使うことで、問題のある商品を購入するリスクを軽減できることに加え、決済情報等を販売者に知らせなくてよい、というセキュリティ面でのメリットがある。

 直近の易观智库のデータによると、2011年2Qの第三者決済を活用したオンライン決済額は4,609億元(約5兆6千億円)であり、取引額ベースシェア1位は「支付宝(Alipay)」であり45.5%を占める。支付宝に続いて中国最大のSNSポータルサイト騰訊(Tencent)QQグループの「财付通(Tenpay)」がシェア21.2%。そして日本でも三井住友銀行などが提携し、日本国内の小売店の店頭で名前を見ることも多くなった銀聯グループの「银联网上支付(UnionPay)」がシェア11.1%である*。

*出所:易观国际「易观数据:2011Q2中国第三方支付市场变动不大 支付宝仍居第一」(2011年8月5日)

 第三者決済サービスは別名「エスクロー」とも呼ばれ、過去に日本や欧米でも注目されながらブレイクしなかった。それが中国で人気を集めたことは、中国市場の特異性を物語っているといえよう。

図:第三者決済のフロー 出所:日本総合研究所作成
図:第三者決済のフロー     出所:日本総合研究所作成

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マネタイズの難しさ

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この記事の著者

紅瀬 雄太(コウセ ユウタ)

株式会社日本総合研究所 総合研究部門 リサーチ&コンサルティング事業部 アジア・コンテンツ・インキュベーション・プログラム(ACIP) 統括プロデューサー、財団法人台湾資訊工業策進会 専案諮詢専門はコンテンツ・メディア領域の新事業開発、グローバル進出。日本コンテンツのアジア展開をテーマとするプロジェ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

山近 紀行(ヤマチカ ノリユキ)

株式会社日本総合研究所 総合研究部門 リサーチ&コンサルティング事業部 コンテンツ創発戦略クラスター 研究員専門は通信・メディア及びコンテンツ領域の環境分析、事業性評価、新規事業展開支援のコンサルティングに従事。日本コンテンツのアジア展開支援活動中。

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