経営者が求めているのは自分で判断できるテスト結果
システムトラブルが企業の社会的な評価を著しく棄損した事例は枚挙に暇がない。ビジネスにおけるシステムの重要性が高まるに従って、その品質に対する経営者の関心も次第に大きくなってきている。しかし、これまでシステムの“品質”は経営者にとって非常にわかりにくいものだった。
「一般的なシステムの品質評価は、バグ摘出率や試験密度などの指標値で分析される。しかし、経営者が知りたいのは“どのくらい品質が悪いのか”“どこの品質が悪いのか”“どんなテストが不足しているのか”など自分が判断するために必要な評価だ」(株式会社富士通ミッションクリティカルシステムズ 取締役 楠本博巳氏)
そうした課題意識から生まれたのが「システム品質検証サービス」と呼ばれるアプリケーション・テストのアウトソーシング・サービスだ。品質要件の厳しいシステムの構築を専門的に手掛ける富士通ミッションクリティカルシステムズと、国内屈指のSI経験を持つ富士通が連携し、これまで培ったアプリケーション・テストに関する技術やノウハウを体系化。テスト計画の策定からケースの作成、実施、レポートまでテストに関わる一連のプロセスをユーザー企業に代わって実施する。
サービスを貫くキーワードは“出来ばえ”の見える化。マトリクスや自動化ツールを使って工程の隅々まで徹底して標準化・効率化した上で、集約された数字をアナリストが分析することで、経験や勘に頼ることなく、単純にシステム的な指標を提示するのでもなく、経営者に理解できる形で品質をレポートする仕組みを整えているのが特徴だ。
業務マトリクスにより試験の網羅性を検証
ここからは、システム品質検証サービス独自の取り組みに注目しながら、一連のプロセスを見ていくこ
とにしよう。ユーザーから依頼を受けた後、富士通は業務マトリクスの作成に取り掛かる。業務要件を定義したドキュメントから業務上の区分やルールを抽出。例えば、銀行業務なら普通預金、当座預金、総合預金といった業務上の区分や、引出、入金、借入といったプロセスが存在する。システムに関わるすべての要素を洗い出した上でマトリクス表に落とし込む(図1)。
マトリクス上に示された各要素の組み合わせ1つひとつがテストポイントになる。例えば、区分「普通預金」と業務「引出」の組み合わせ、あるいは区分「当座預金」と業務「入金」の組み合わせなど、各条件を組み合わせた結果がテストケースの候補になるわけだ。もちろん、システムの全条件を網羅することは現実的に難しいし、現実にはありえない条件の組み合わせ、非常に稀にしか発生しない組み合わせもある。ただし、一旦はマトリクス上に洗い出すことによって、抜け漏れを防ぐことができるようになるわけだ。
実際にテストの実施をするか否かについては、完成したマトリクスを前にユーザーと富士通が膝を突き合わせて決定していくことになる。テストに掛けられるコストと品質の要求レベルを比較考量しながら、実施するもの、実施しないものを判断し、ルールに従ってマトリクス上にマークしていく。
テスト実施の有無を決定した後は、再び富士通側の作業となる。あらかじめ作成しておいた画面遷移フロー図とマトリクスをツールに投入すると、検証条件を記載したテストケースやシナリオをまとめた手順書が自動的に生成される。一般的にテストケースの作成には相応の手間と時間を要するが、マトリクスを起点とすることでコストを削減するだけでなく、ヒューマンエラーをも排除できるようになっている。仕様変更が発生したり、テスト対象範囲を広げたりした場合も、実質的な作業はマトリクスの修正だけで済む。