15世紀の大航海時代に停滞する経済打開のヒントがある
「Business Analytics Forum Japan 2012」のオープニングではソフトウェア事業ビジネス・アナリティクス事業部の事業部長である清水徳行氏が登壇。「スマーター・アナリティクスが開くビジネスの未来」と題する基調講演を行った。
我々が日常的に向き合う膨大なデジタル・コンテンツを情報の大海原、情報の利用者である個人・事業者を航海者になぞらえ、現在は「情報大航海時代」にあると言われている。清水氏は、この言葉の元になった大航海時代、数世紀前の欧州諸国による海外進出に、日本がおかれた現状を打破する示唆があると見ている。なぜなら、欧州諸国が遠路、アフリカ、インド、アジアに進出した背景には、経済の停滞があったからだ。
15世紀半ば、南太平洋のバヌアツで海底火山が噴火し、大量に噴出された火山灰の影響で、欧州でも飢饉が発生した。さらに同時期、オスマン帝国により東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルが陥落し、欧州のキリスト教国は東西の交流拠点を失った。海洋国家のジェノバやベネチアが没落し、別の海路による新たな市場開拓が求められることになった。
一方、東ローマ帝国にいたキリスト教徒の学者・知識人が西欧に亡命したことにより、ルネサンスが加速したと言われている。発展したのは文化や芸術だけでなく、科学、特に応用技術の進歩もめざましかった。元々海洋国家のジェノバやベネチアの人たちが、新しい技術、情報を得ることにより、造船技術、測量術、航海術が発展し、さらには羅針盤を発明することになる。彼らはその新しいテクノロジーにより、スペイン、ポルトガルといった海洋国家の力を借りて、大海原に出て行った。
清水氏は「大航海時代では、経済の停滞、激変が新たな文化の発展をもたらし、そこから新たな技術が生まれ、新天地に新しいものを求めた。それは情報大航海時代でも同様だ」と語る。
日本経済は、内需縮小とデフレ、円高による停滞が続いている。この悪循環から脱するにはイノベーションを創出し、新しいマーケットを開拓する必要がある。清水氏は「すでに多くの企業がアジアに進出しているが、各国の気候、文化、価値観は多様。これまで生産拠点ととらえる傾向が強かったアジアの市場を開拓するためには、個々の客を理解する必要がある」と語る。
新しいテクノロジー活用で個との「つながり」を実現
大航海時代に新しいテクノロジーが新航路開拓に貢献したのと同様、情報大航海時代における新市場開拓でもテクノロジーがキーになる。そこでIBMが羅針盤として位置づけているのが「スマーター・アナリティクス」だ。これは情報活用に役立つプロダクト、サービスを以下の5つのポイントで統合したものになる。
統合:社内外の様々な情報を統合し、分析に適した形に整える。
予見:情報を分析し、素早く洞察を得る。
行動:分析結果に基づいた最適な意思決定を行い、実行する。
学習:分析/行動結果を検証、学習し、分析力を継続的に強化する。
変革:統合、分析、行動、学習を組織に繰り返し展開し、価値創造のための変革を促進する。
では、スマーター・アナリティクスを使い、具体的に何をすれば良いのか。そこでヒントとして清水氏が紹介したのが「IBM Global CEO Study 2012」。この調査により、数多くのCEOが「つながり」による優位性の構築に取り組んでいることが分かる。すなわち、社員との価値観共有を通じ、権限を委譲する。市場分析だけでなく、ソーシャルメディアなどの非構造化データも分析し、個のレベルで顧客に応対する。さらに、すべての局面で複雑化する事業環境で求められるイノベーションには、パートナーとの連携が不可欠と考えている。
「情報大航海時代に企業の優位性を確保するには、新しいテクノロジーの活用がキーになる」(清水氏)。
元Google Japan社長 村上氏が語る「ビッグデータ2.0」
続けて元Google日本法人会長の村上憲郎氏が登壇。「ビッグデータ2.0へ向けて」と題する特別講演が行われた。
電力網や家、家電製品など、あらゆるもののスマート化が始まっている。そして、従来人と人とを結び付けていたインターネットは、こうしたスマート化されたモノ同士を結び付けるInternet Of Things(IOT)へと進化しつつある。
スマート化の中心になると見られているのは電力網、スマートグリッドだ。まず始まっているのが人とモノの結びつけで、ドイツの電力会社が導入したスマートメーターは、電力使用量が一定量を超えると、ユーザーに「使いすぎ」とツイートする機能が話題になった。電力の見える化の次は、消費電力の制御、三番目に来るとされているのは独居老人などの「見守りサービス」だ。
実はその先、IOTにおける4番目のサービスはまだ見えていない。村上氏は、そこで大きな位置を占めるのがビッグデータと見ている。現在、Googleの技術から生まれたHadoopをはじめ、データマイニング、ニューラルネットワークなど、ビッグデータ近辺での技術が着々と整えられている。
村上氏はビッグデータには1.0と2.0の2段階があると考えている。1.0は文章で言えば構文解析であり、文中の品詞を言い当てる。人に置き換えるなら、性別、年齢、職業、年収、購買履歴などを解析することにより個の姿を見る。
一方2.0は、意味解析になる。人に置き換えると、行動履歴、生活パターン、ソーシャルネットワークにおける活動傾向などを見る中からその人となりを理解する。そこでポイントとなるのが、人間の介入を必要としない、自律的な解析技術だ。
すでに米国ではビッグデータ関連の研究を推進している。たとえば2012年3月、ホワイトハウス科学技術政策局は、2億ドルの巨費を投入するビッグデータに関するR&Dイニシアティブを発表した。「そこでは自律的という言葉が使われており、明らかに2.0をめざしている」(村上氏)。