今回は、ネット選挙における有権者と政治の関係の変化ではなく、現在既に起きている「行政と企業や市民の関係性の変化」を考察していく。ニューヨーク市における「オープンガバメント」の取組み題材に、私たちが住む都市が、ネット社会にどう対応し、市民がどのように行政に関わっていくか。行政を通じた社会課題の解決にとどまらない新しいビジネスの創発、行政サービスの変化による都市のブランディングなどの新しい動きに注目する。企業・市民・行政を巻き込んだ新たなビジネスの生態系を、デジタル化を手段としたオープンイノベーションのヒントとして紹介します。
デジタル化を背景に“個人”の力が増加する時代に登場した「オープンガバメント」
ネット選挙のような政治参加だけでなく、日常における情報発信や収集、ソーシャルメディアを通じたコミュニケーションのあり方の変化など、“ネット社会”が一般的な時代となった。ビジネスにおいても、ユーザーとコミュニケーションをとり、ユーザー自らが企業のコンテンツの二次創作や三次創作を行ない、CGM(Consumer Generated media)などのように「ユーザー同士で作り上げるコンテンツ」の領域も増えてきた。
このような流れ、つまり「メディアのプラットフォーム化」と「個人が行える領域の拡張」によって、ユーザー個人の力が増してきている。企業は個人の活動を支援し、プラットフォームを支え、ユーザーが生み出したプロトタイプやサービスに対して投資を行う。そのような取組みから製品を生み出すような「企業と個人」の関係性に、シフトしているのではないだろうか。
また、ビジネスの推進には、行政の力も必要だ。企業と政治行政が、共にまちづくりや経済特区などのコミュニティを手がけていくことで、ビジネスを発展させていくことができる。こうした分野の発展において、今後ますます広がるネット社会やデジタルを活用した手法が求められる。
ニューヨーク市によるデジタル都市計画
アメリカ・ニューヨーク市(以下、NYC)は、世界でも率先してデジタル都市を推進しようと力を入れている。2010年後半から、加速するネット社会に対応するため都市のデジタル化を推進している。デジタル都市計画として「Digital Road Map(デジタルロードマップ)」を作成した。
「Access」、「Education」、「Open Government」、「Engagement」、「Industry」という5つの軸で、デジタルロードマップは構成されている。この5つのカテゴリーを軸に、行政情報のソーシャル化やデジタルコミュニケーションの推進、デジタルを中心としたビジネス支援などを行っている。次ページ以降で、まずはそれぞれの取組みについてみていこう。
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江口 晋太朗(エグチ シンタロウ)
TOKYObeta。編集者。これからの未来のための情報設計や環境デザインを実践する編集者。スタートアップやテクノロジー、デザインやカルチャーの分野のコンセプトワークやメディアづくり、企画設計などで企業の事業支援を行う。Twitter@eshintaro
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