ヨットには300のセンサーが搭載され勝利のためのデータ収集が行われていた
先日のレポートでも報告したが、3日目の午後に予定されていたメインイベントの1つ、ラリー・エリソンCEOの基調講演は急遽キャンセルとなった。ラリーがドタキャンしてまで手に入れたかったのがこれ「America's Cup」だ。国際的なヨットレースで1851年から開催されており、近代オリンピックやサッカーワールドカップなどよりもかなり歴史の古い世界競技。前回33回大会でスイスチームを破りBMW Oracle Racingが勝利。今回の34回大会が、Oracle Team USAにとっては初の防衛戦だった。
ラリーはここ最近、このAmerica's Cupにとにかく入れ込んでいる。以前にも、イベントがヨットレースの日程に重なり、基調講演を現地からの中継で切り抜けたこともあった。
しかし、今回は直前でのキャンセル、そしてトーマス・クリアン氏によるピンチヒッターだ。Oracleのビジネスの方向性を自ら発表するよりも、このカップの行方のほうがラリーには大事だったのだろう。
というのも、チャンピオンにレギュレーションを決める上での多くの権限が与えられ、地の利を生かせるサンフランシスコベイでの開催だったにも関わらず、今回の大会では1対8と大きく負け越し、挑戦者のニュージーランドチームに大手をかけられてしまったのだ。そこからなんとか1つ1つ挽回し、この日の午前中の勝利で7勝8敗までこぎ着けた。となれば、大事な8勝目の行方を知らずに、基調講演をすることなどどのみちできなかっただろう。
ピンチヒッターのクリアン氏の講演直後、待望の8勝目を挙げたことが会場に伝えられ参加者からは拍手が巻き起こった。同時に、Oracle関係者からは安堵のため息が聞こえたような気もした。さて、絶体絶命の状態から奇跡的な追撃で8勝8敗の5分に持ち込み、残り1戦に勝利したほうが優勝。がぜんサンフランシスコの街は、盛り上がりを見せたのだった。
前日までとは打って変わり、翌日の決勝戦の会場には多くの観客が押し寄せる事態に。
幸運なことに、日本からOracle OpenWorldの取材に参加していたプレスは、この決勝観戦に招待してもらえたのだ。それも、食事と飲み物付き。決勝戦のレースは時間にして20分あまり、思っていたよりもあっという間に過ぎてしまった。
出だしこそ、Oracle Team USAは躓き気味だったが、その後はどんどん差を広げ大きくライバルを引き離し勝利のゴールに飛び込んだのだ。
さて、今回のヨットレース、勝負の裏ではデータが活用されていた話を紹介しておきたい。
1勝8敗で負けていた状態からは、常に改善、改善の毎日だったとのこと。できることを、1つずつ確実に行った結果勝利だったようだ。とにかくあきらめないでやり続けることが大事で、その「やるべきこと」を見いだすところでデータが使われていた。
Oracle Team USAでは、船体の構造自体には自信を持っていたようだ。なので、とにかくレースを行うたびに船に乗るクルーは学び続け、デザインチームはデータを収集し分析をする。ヨットには約300のセンサーが取り付けられており、レースを行うと1ギガバイトから2ギガバイトのデータが収集される。それらを分析し、次のレースで何をすればいいのかを考えたとのこと。当然ながら、地域の気象や海の状況など、あらゆる情報も事前に収集していたに違いない。それらをOracle Exadataなりを存分に使い、高度な分析、シミュレーションが行われていたのではと想像している(このあたりの詳細な説明は当日は行われなかった)。
海や風という、ある意味気まぐれで予測しにくいものを相手にするヨットレース。データを蓄積し分析を繰り返せば、難しい予測もだんだんと精度が向上したに違いない。クルーのがんばりと、データの分析、これらがあってチーム一丸での勝利だったようだ。