ITSSとは
2002年12月に経済産業省が、「IT国際競争力の強化」をうたい文句に、ITSSをリリースしました。これは疑うべくも無くアジアに対して日本のIT企業、IT技術者のポジションを明確にしていくことが狙いです。共通の指標でIT企業やIT技術者を捉え、人材戦略を立てた上で育成計画を策定し、具体的で効率的なIT人材の育成を促すことが大きな目的です。2006年4月に分かりやすく改良されたITSS V2が 発表され、同年10月には引き続きマイナーバージョンアップ版のITSS V2_2006が発表され、現在に至っています。
発表当初から積極的に取入れようと注目したITサービス企業や、具体化された企業もありますが、多くのITサービス企業については、何のメリットがあるのか分からない、これに取組めば儲かるのか、取組めるような暇もお金も無い、経営層の理解を得られないなどという意見が聞こえてくる有様です。昨年のITSS V2発表で、その分かりやすさから改善されつつはあるものの、まだまだ企業としての人材育成に対する優先順位が低いことを感じさせられます。
このように、ITSSの本格的な普及が進んでいないのは周知の事実ですが、中でも一番多い失敗例は、社員がITSSキャリアフレームワークの中のどこに位置づくかマッピングして終わっているというケースです。もちろん、自社のバリューを明確にすることは重要ですが、これは「企業間比較」そのものにほかなりません。分かりやすく言うと、よく理解しないまま「オラクルマスターを何人持っている」と同じような企業アピール、もしくは他社との比較目的で使ってしまう状況が多く見受けられるということです。
それなのに、経営者や導入責任者の方々に話を聞くと、活用目的は人材育成だということになっています。人材育成も目的ではなくて手段であり、ビジネス目標の達成に貢献するというのが目的なはずですが、それは置いておいても、自社の経営戦略に基づいた人材像を策定していない限り、現状把握だけしてもそれで終わってしまうのは当然のことでしょう。“To-Be”が無いのに“As-Is”とのギャップは出ないということです。
“To-Be”があってこその“As-Is”
また、To-Beは、自社の役割や人材像がピッタリとITSSと合っていない限り、提供されているITSSのキャリアフレームワーク上には表現されません。同じコンサルタントという呼び名であっても、各社のビジネスモデル、得意分野、位置づけなどで、その役割や責任範囲、スキルセットが異なるのは当然のことです。
そう考えると、自社の経営戦略、ビジネス目標から、どのような人材がどのくらい必要になるかを考えないとTo-Beを定義したことにはなりません。ITSSキャリアフレームワークはあくまで共通指標であり、自社のモデルが反映されているわけではないのです。企業側からすると、ITSSキャリアフレームワークのコンサルタントのレベルを上げることは、あくまで目安であり、ビジネス目標とは直結しないことを理解する必要があります。
多くの失敗例を目の当たりにして、自らが人材育成を課題として取り上げ検討するのではなく、与えてもらうのを待っているという状況に見えます。