
情報システム部門とEコマースを統合した「東急ハンズ」。店舗とECショップとの調整の中で、顧客のためにも全社的なオムニチャネル対応の必要性を痛感したという。店舗でもネットでもあらゆる利用者が快適に買い物を楽しめるためにはどうしたらいいのか。第6回は、キーマンである長谷川秀樹氏の東急ハンズにおける顧客の相互利用の分析に基づき、オムニチャネル化に必要な要件について考察する。(前回の記事はこちら)
店舗と自社ECショップ、外部チャネルの共存共栄を模索
――あらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合する、いわゆる「オムニチャネル」の必要性を感じ始めたきっかけはありますか。
ユーザー目線で考えれば、誰もが必要であることはわかっているでしょう。しかし実際には、ECショップの拡充で店舗の売上を取られるのではないかという懸念など、心理的な障壁が想像以上に大きいことを実感しました。ECショップなど様々なチャネルと連携することで店舗にもメリットがあり、相乗効果で全体的な売上が上がる、そんなイメージを持ってもらえればと思うのですが…。議論を尽くしても、こればかりは実感するまでなかなか理解できないと思うので、まずは少しずつ実践していきたいと考えています。
また、楽天サイトへの出店を決めた時は、売上をそちらに持っていかれるのではないかというECショップ同士の売上の食い合いも懸念されました。私自身は、チャネルを増やせばその分全体の売上が上がっていいじゃないかと思っていたのですが、それぞれ担当を持つと垣根ができてしまいますね。
とりあえず、実際にどうなのか。店舗や自社ECショップ、楽天、Amazonなどでの購買行動を様々な角度から調べてみました。まず、楽天と自社のECサイトについてはわずか3%しか重なっていない、つまりは売上の喰い合いが起きていないことがわかりました。楽天やAmazonで購入する人は「欲しい物」が決まっており、ピンポイントで検索して一番安いところから買っているようです。その際、たまたま東急ハンズから買うことになっただけなのでしょう、欲しいもの1点だけを購入する人が多く、客単価は低めです。
一方、東急ハンズのECショップで購入する人は「東急ハンズで買おう」という意識を持って来訪するようで、欲しいものの銘柄をサイト上でいろいろと吟味してから購入しています。その過程で面白そうなものがあれば「ついで買い」も多く、点数も多く単価も高めです。
さらに興味深いのが商品数と売上の関係で、楽天とAmazonは登録する商品数を増やせば増やすほど売上も上がったのに対し、自社ECショップでは期待したほど効果が得られなかったのです。
――なぜ、自社ECショップでは商品数を増やしても思うような効果が得られなかったのでしょうか。 楽天とAmazonで売上が上がるのは、商品数を増やせば増やすほど検索がヒットするからというシンプルな理由です。
一方、自社ECショップについては、利用している顧客の気持ちになって考えてみました。推測するに「買いにくくなったから」だと思います。商品数が10倍以上に増えたことで探すのに時間がかかり、さらには目移りするようになったのでしょう。
以前、商品情報の登録を効率的に行えるようにシステム化したことをお話したと思うのですが、その弊害として並べ方、見せ方が機械的になるということがあります。たとえば「フライパン・鍋」というカテゴリがあったとして、以前なら手作業だったのでフライパンと鍋が分かれて並んでいたのですが、システムだと混在して掲載されます。
そこで、これまでのような機械的に一気にという方法を反省して、自社ECショップについては、もっと人の手が感じられる丁寧な品揃えやカテゴリ分け、リコメンド等を行っていきたいと考えています。
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伊藤真美(イトウ マミ)
フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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