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現場のアイデアをその場限りの改善で終わらせるな-強力な「特許」を得るための思考プロセス

  2012/12/10 07:00

前回は特許制度の意義と概要について説明した。今回は、企業あるいは個人が特許を獲得するためのプロセスについて簡単に解説しよう。

特許取得のためのプロセス~3つのパターン

特許取得のためのプロセスは大きく以下の3つのパターンに分けられる。

1.「必要は発明の母」型

 一般論ではあるが、製品企画や開発などの企業としてのメインの業務から離れた環境で強力な発明をしましょうと言われても困難なことが多い。それよりも、本来の業務から日々生まれる問題点の解決策としてのアイデアを特許化するのが近道だ。

 顧客の不満を解決するためのアイデア、競合他社と差別化するためのアイデア、開発者としてのちょっとした思いつきによるアイデア等々だ。個別には些細な改良であっても、特定分野において組み合わせることで強力な特許ポートフォリオを構築できる。

 たとえば、アップルはGUI関係で数多くの特許を取得している。個別に見ると、比較的単純なアイデアが多い。自社製品の重要差別化要素であるGUI分野の特許ポートフォリオを充実させていることが、サムスン等の競合他社に対する強力な武器となっていることはよく知られている。特許が数件しかなければ容易に回避あるいは無効化されてしまう可能性が高いが、同じ方向性の複数の特許が束になることで強力な知財資産を構築できる。

2.「発明は必要の母」型

 いきなり「さあ発明をしろ」と言うのではなく、日々の業務から生まれた様々な問題点の解決の手段として発明をすべきと言ったばかりだが、それでも、今までになかったアイデアが業務上の必要性とは直接関係なしに、突然に浮かぶことはある。仕事の場だけではなく、たとえば、飲み会などのカジュアルな場の「馬鹿話」から斬新な発明の種が生まれることもある。このよう「セレンディピティ」を無駄にしてはいけない。アイデアをさらに練ることで特許化を検討すべきだ。

 実際には、このような今までにない発明が、新たな市場(つまり新たなニーズ)を作り出すというケースはさほど多くはない。特に、ITの世界ではほとんどないと言ってもよいかもしれない。それでも、今日のGoogleの地位をもたらしたページランク特許(権利者はスタンフォード大学)やAdWords特許(権利者はOverture社(現在はYahoo!))はこのカテゴリーに属するだろう。

 その発明の分野が、企業の現在の事業とは直接関係なく、また、新規事業として立ち上げるだけの余裕がない場合であっても、特許権を取得しておけば、他社へのライセンスや譲渡で金銭的収益を上げることができる。このように「自分で作った知財は自分で使うもの」という旧来の発想から離れて、知財を企業間で資産として自由に流通させ、有効活用していこうという考え方を「オープン・イノベーション」と呼ぶ。オープン・イノベーションについては本連載の以降の回でより詳しく説明しよう。

 また、特許権(あるいは特許化できそうな特許出願)を担保にして、新規事業のための投資を受けるというやり方もある。現時点では、特にソフトウェア特許の分野においては特許権を資産として査定して投資を得るというケースはさほど多いわけではない(最大の課題は特許権の価値評価の難しさにある)が、知財活用型の経営は今後の日本の進むべき道でもあることから、制度面、そして、市場環境面での整備も進んでいくことが期待される。

3.「発明は発明の母」型

 前回、特許制度のポイントは「独占の代償としての公開」であると述べた。つまり、特許文献をチェックすれば、その技術分野における最新の技術革新が(ノウハウとして秘匿することを選択されたものを除き)把握できる。

 技術進化は過去の蓄積があってこそ推進できる。発明においても、今までにその分野でなされてきた発明の概要を知り、その問題点を解決する、ないし、最適化するなどの改良発明を行なうことが強力な発明の近道だ。

 実際、多くの重要な発明は過去の発明の改良発明だ。たとえば、先に挙げた前例のない発明の例であるAdWordsも、見方を変えれば、サーチエンジン、バナー広告、パーソナライゼーション、オークションなどの過去からあるアイデアを革新的なやり方で組み合わせたものと言うこともできる。

 そもそも、上記の(1)と(2)のパターンから生まれた発明であっても、いきなり出願するということはあり得ない。ある程度、発明のアイデアが固まった段階で、過去に同様のアイデアがないかどうかを調査する必要がある。そして、過去に同様な発明が見つかった場合(多くの場合、見つかるのだが)には、その発明の改良案を検討することになるだろう。

 つまり、発明のパターンを3つに分けて説明してきたが、実際には、(1)→(3)、(2)→(3)、(3)→(2)、(1)→(3)→(1)等々、様々な順序と組み合わせで使われることになるということだ。

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著者プロフィール

  • 栗原 潔(クリハラ キヨシ)

    株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授 日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプス...

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