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池田信夫に栗原潔が訊く!クラウド・電波開国・イノベーション

  2010/04/26 07:00

今日のIT産業、さらには、社会においてクラウド・コンピューティングが重要なパラダイムシフトをもたらしつつあることは言うまでもないだろう。この変革の時期において日本企業、そして日本という国はどのようにイノベーションを実現できるのか。
経済学者の池田信夫氏に情報政策、そして、イノベーション論の観点から意見をITコンサルタントの栗原潔氏が訊いた。

なぜ、クラウドのイノベーションは米国中心なのか?

― 池田先生には、情報政策およびイノベーション論の観点からクラウドについてお伺いしたいと思います。まず、最初にお聞きしたいトピックは、クラウドのプラットフォームの主導権が実質的に米国ベンダーに取られてしまったという点です。

もちろん、国内ベンダーにもビジネスチャンスはあるわけですが、一番おいしいところを米国勢に持って行かれてしまったという、いわば過去の歴史の繰り返しになっているわけですが、その理由はどこにあるのでしょう。なぜ、日本勢はまた同じ過ちを繰り返してしまったのでしょうか?

経済学者 池田信夫氏
経済学者 池田信夫氏

 これはプラットフォームに限らず、イノベーションに対する考え方の問題だと思いますね。クラウドだって昔はNC(ネットワーク・コンピュータ)だ、ASPだとか言って同じようなことをやったけどあまりうまくいかなかった。そして、SaaSと言い出して、クラウドにとしつこくやり続けてようやくものになってきた。

 例えば、iPhoneやiPadだってNewtonなどの失敗があってこそ成功できたと思います。グーグル創立者のセルゲイブリンもグーグルの成功における最大の要因は運だったと言っている。イノベーションには技術だけではなくて時の運もある。だから失敗を恐れずに数打つことが重要です。

―成功した事例だけを後付けで見ると、何の問題もなくすぐに成功してしまったように見えることもありますが、実際は数々の失敗があるわけですよね。

 そうです。グーグルだって最初はビジネスモデルもなく、サーチエンジンをやっていた。収益化の選択肢のひとつだった検索広告ビジネスがたまたまうまくいっただけ。アップルだって、今はプラットフォーム・ベンダーのような顔をしているけど最初はオモチャみたいなものだった。iPodが出た時にみんな酷評したし、レーベルを持ってないメーカーが音楽配信ビジネスを始めても成功するとは誰も思ってなかった。つまり、プラットフォームで成功するのはあくまでもいろいろトライして、運もあった上での結果だと思います。

―経営する側も資金を出す側も積極的にリスクを取りに行くからこそでしょうね。

 そう、それが米国の懐の深さだと思います。打率は大したことないかもしれませんが、なんだか面白そうだから資金を出してみようかという考え方がある。ところが、日本の企業や政府は最初からプラットフォームを作ろうとしてしまう。これが最大の問題だと思いますね。

―情報大航海プロジェクトのように政府主導型でイノベーションを行なおうとしてもほとんどうまくいくことはないですよね。

 情報大航海プロジェクトの話が始まった時に、グーグル内部の人と話したことがありますが「うちはもうサーチエンジンの会社ではない、インフラの会社だ」、「うちにはサーバが100万台あるが、情報大航海のプロジェクトで何台のサーバを用意できるのか」と話していました。いわば戦う前から負けは決まっていたようなものです。あと、日本のイノベーションはどうしても企業が多角化の一環として行なう傾向がある。

 だから、データセンターがブームになると、どの企業もデータセンター事業進出で結果は市場の取り合いというような話しになってしまう。イノベーションは大企業の取締役会で調整型の議論をすればできるものではない。ある種の「変な人」が思い込みで時代の流れと違うことをやるという要素が必要なのです。

―とは言え、日本でプラットフォームでのイノベーションを成功できた事例としては任天堂のゲーム機があると思いますが。

 それはまさに政府の言うことを聞かずに、わがままを通して成功した例ですね。任天堂は常識外れのことをやって成功できた欧米型精神の企業だと思います。調整型、コンセンサス重視、官主導のような考え方ではもう成功できることはないでしょう。もちろん、こういうやり方がうまく行く領域もある。自動車産業はそこそこうまくいったし、水資源のような分野ではまだ有効なやり方でしょう。しかし、情報通信の世界ではもう無理です。

―隣国の韓国はどうでしょうか。政府とサムスンなどの大企業が護送船団的な政策をとって情報通信分野で成果を上げていますが。

 それは例外でしょう。韓国だからできる話しで、経済的に成熟した今の日本がそれをやったらWTOに怒られてしまう。そういう意味では、日本も過去にはVLSI(Very Large Scale Integration)プロジェクトなど政府が民間をコントロールすることでうまくいったこともあった。しかし、それはあくまでも過去の話しでこれから通用する話ではありません。

―政府は産業政策に口を出すなということでしょうか。

 誤解されやすいのですが、私は政府が産業にまったく介入すべきでないとは思っていません。政府がやるべきことはいっぱいあると思っています。やってはいけないこともいっぱいありますが(笑)。政府は余計なことをしないで、民間が競争しやすくなる環境を作れば良い。外資参入の規制緩和、法人税の優遇、電波領域の開放等などやるべきことはいっぱいあります。ところが、なぜか、すぐ役所が方向性を決めて、民間がそれについてくればよいという方向性になってしまうんですね。

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著者プロフィール

  • 栗原 潔(クリハラ キヨシ)

    株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授 日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプスコット『デジタルネイティブが世界を変える』、トーマス・C・レドマン『戦略的データマネジメント』、ジェフリー・ムーア『ライフサイクルイノベーション』、『エスケープ・ベロシティ』(ともに翔泳社)など多数。

  • 渡黒 亮(編集部)(ワタグロ リョウ)

    翔泳社 EnterpriseZine(Security Online/DB Online/Operation Online) 編集長 大学院を卒業後(社会学修士、中学・高校教諭専修免許状取得)、デジタルマーケティング企業にてデータアナリストとしてCRM分析・コンサルティング業務に従事。2007年4月翔泳社入社。ITおよびビジネス書籍の編集、イベント・セミナーの企画・運営、雑誌「IT Initiative」の副編集長などを経て、2012年からWebメディア「EnterpriseZine(エンタープライズジン)」に参画、2014年より編集長に就任、現在に至る。

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