パートナーとの関係は「古くて新しい」課題
平成の30年間は、まさに、IT部門によるアウトソーシング戦略の変遷でもあった。委託先のパートナーとの関係は、テクノロジの進化や企業を取り巻く経営環境の変化とともに変容してきた。
しかし、依然として、その関係における課題や摩擦を払拭できていない。ガートナーが日本企業のITリーダーを対象に実施した最新のサーベイの結果でも、「開発・運用の委託先パートナーはIT戦略上の重要な存在である」と回答している企業の割合が全体の85%に上っている。しかし、その一方で、「現在の委託先パートナーに満足している」割合は42%だった(図1)。
ガートナーのアナリストでプリンシパルの中尾晃政氏は次のように述べている。
「企業はこれまで、コスト削減、効率化、人員補完による余力創出を目的としてアウトソーシングを活用してきました。しかしながら、期待した成果が見いだせないか、あるいは、長期にわたるアウトソーシングによって『パートナー依存』に陥っている現状が見て取れます。企業におけるアウトソーシングの需要は今後も増える傾向にあり、IT支出に占める比率も拡大すると予想されます。IT部門が人材不足の課題を解決できない状況は続くと考えられます」。
委託先であるITベンダーにおいては、大手プレーヤーの市場支配が定常化し、重要顧客の「囲い込み」も加速している。ITベンダーは、デジタル・トランスフォーメーションへの注力度に温度差があり、大手ITベンダーであっても決して全方位の施策に長けているわけではない。そのため、企業が推進したい施策内容による人材スキルの差や不足が生じる可能性がある。
IT部門は限られたリソースを前提に最適なソーシング・オプションを選択すべき
ユーザー企業は、今後もリソースが限られていることを前提にしたIT施策を遂行するために、社外のパートナーを広く捉え、その能力を可能な限り活用する必要がある。企業のデジタル・トランスフォーメーションの推進には、多様なパートナーの能力を最大限活用するソーシング戦略は不可欠になる。
そのため、IT部門には、デジタル・トランスフォーメーションに対する「姿勢」を明確にすることが求められる。企業においてデジタル化を推進している中心組織はIT部門以外のビジネス部門であることが多く見受けられるが、IT部門は企業のデジタル化にどのように対処していくのか、その立ち位置を明確に打ち出すことが重要だ。
ソーシング戦略の遂行においては、これまでのように要件や課題が明確になった取り組み(モード1)だけでなく、失敗してもそこから学習していくイノベーション活動に近い取り組み(モード2)も実施していかなければならない。 これら2つの取り組みを進めていくためには、モード1とモード2に切り分ける、あるいは、それらを併用する「バイモーダル」なソーシング戦略を志向する必要がある。
ガートナーが実施したサーベイの結果では、企業のリソース不足が叫ばれる中、今後の外部委託範囲については、「設計・開発・実装」と「運用・保守」だけでなく、上流工程である「戦略・企画立案」においても、増やしていく意向が見られる(図2)。
中尾氏は、次のように述べている。
「戦略・企画立案のような上流工程は従来、内製中心の領域でしたが、デジタル・トランスフォーメーションに臨み、社外パートナーの貢献の機会が増えています。例えば、アイデア創出の段階から社外リソースと協創する場を設ける試みや、個人レベルの能力の追求が見込まれます。人材確保の観点では、テック・ベンチャーとの提携はもとより、クラウドソーシングやギグ・エコノミー、地方ITベンダーの活用なども選択肢に含まれるようになります」。
また、中尾氏は次のようにも提言している。
「デジタル時代において、IT部門が社内のプレゼンスを向上させるためには、ステークホルダーに対するIT部門の役割を明確にすることが大前提です。その上で、パートナーシップの在り方を再構築していく必要があります。パートナーには、これまで中心であった、大手ITベンダーだけでなく、多彩なソーシング・オプションの可能性を追求していくことが求められます。同時に、こうした多様なパートナーの能力を最大限引き出していくためには、モードを切り分けたベンダー管理能力や、契約交渉力の強化に対する取り組みが欠かせません」。
なお、ガートナーは8月30日に、東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)において「ガートナー ITソーシング、プロキュアメント、ベンダー&アセット・マネジメント サミット 2019」を開催する。
サミットでは、「デジタル時代のパートナー戦略を構築せよ」をテーマに、これまでのアウトソーシングの成果と教訓を統括しつつ、デジタル時代の新たなパートナー戦略の構築に向けて、ITリーダーが押さえるべき施策をはじめとした実践的な提言を行う。