KPMGコンサルティングは、グローバル自動車業界の1,041名の経営者を対象に実施した2023年度の調査結果を発表。さらに、約6,000名の日本の消費者を対象とした調査も行い、その結果をレポートで公開した。
経営者は自動車業界の成長に対して弱気
自動車業界の経営者が長期的な成長に対して自信を失っていることが明らかになった。グローバルな経営者を対象に「今後5年間で自動車業界の収益性が向上すると確信しているか」と質問した結果、「確信している」と回答した割合は81%で、前年の83%と比べて大きな変化は見られなかった。しかし、「強く確信している」との回答は前年の41%から34%へと顕著に減少した。特に日本では、この減少が顕著であり、「強く確信している」との回答は32%から10%へと大幅に低下した。一方、中国、インド、東南アジアなどの地域では、自動車業界の長期的な収益性の向上への確信が強まっていることが見て取れる。
BEV(バッテリーEV)の市場予測は低下
マクロ経済環境の影響に関して、グローバルの経営者74%(前年比76%)が2024年の金利、エネルギー価格、インフレ率のビジネスへの影響を懸念していることがわかった。しかし、「強く懸念している」と回答した割合は前年の28%から23%に減少し、警戒感はやや和らいでいる。対照的に、日本では「強く懸念している」との回答が前年の14%から26%に増加している。
BEV(バッテリーEV)の市場予測は低下し、「政府の補助金がなければ」と考える声が増えている。2030年までの新車販売台数のうちBEVが占める割合に関する質問に対して、2021年は中国、アメリカ、日本、欧州の各地域で約半数が50%と予測していたが、2022年には予測比率が急激に低下した。2023年には少し回復し、中国36%、アメリカ33%、日本32%、欧州30%という結果になった。ガソリン車の廃止を目指す政府の目標にも関わらず、「2030年が近づくにつれ、経営者たちは現実的な見通しに基づいて慎重になっている」と大熊恒平氏は指摘する。
さらに、日本の消費者に対する「今後5年以内に車を購入するとしたらどの車種を選ぶか」という質問では、2023年時点で64%がエンジン車を選ぶと回答し、BEVへの購入意欲は前々年から変わらず13%と低いままである。
「政府の補助金なしで2030年までにBEVのコストがICE(内燃機関)車と同程度になる」と予測する経営者の割合が、前年比4ポイント減の66%に低下した。日本では、2025年までにBEVのコストがICE車と同程度になると予想する経営者は皆無であり、2030年までに同程度になると予想した割合も40%にとどまった。
さらに、「政府による補助金制度」を支持する意見が前年から9ポイント増の84%に上昇した。日本の経営者では賛成意見が64%であり、「分からない」と回答した経営者も17%に上り、今後の方向性に対する不透明感が浮き彫りになった。消費者に対して行った「BEVは政府の介入なしに今後10年間で広く普及すると思いますか?」という質問では、78%が「いいえ」と回答し、政府の介入なしにはBEVが普及しないとの見解が強いことが明らかになった。
サプライチェーンへの懸念は改善
サプライチェーンの緊張がやや緩和されている様子が今年は全体を通じて見受けられる。「今後5年間で、以下の各項目の継続的な供給にどれほど懸念しているか?」という質問に対する調査で、前年に続き、燃料電池、素材、レアアース、セミコンダクタに対する懸念を抱えている経営者が半数近くに上るものの、すべての材料における供給懸念が低下していることが示された。特に、日本の経営者の間ではサプライチェーン戦略に対する関心が全体的に低いことが示された。
「ジャストインタイム」から「ジャストインケース」へ、つまり予防策を取り入れたアプローチへの移行が見られると小谷野幸恵氏は指摘する。
グローバルではAIスキルの必要性高まるが、日本ではハードウェアをより重視
「AIや先進ロボットなど最先端の生産技術に対して十分な準備ができている」と回答した割合が大きく減少しており、「今後重要となる職務スキル」の部門で、AIが前年の第3位から第1位に上昇した。しかし、日本ではAIが第4位に位置づけられ、「ハードウェアの電動化技術」、「高度な製造スキル」、「その他のハードウェア技術」がAIよりも上位にランクインしている。
こうした調査結果を踏まえ、轟木光氏は、業界全体の課題への対応策として、以下の4つの提言を行った。
- 市場の不透明性に対してリスクヘッジを施し、将来展望へのコミットを固める。
- AIを業務に統合し、変革への準備を整える。
- 世界的なビジネス課題に対応するグローバルな戦略を策定する。
- 変化する市場環境に適応し、新価値を創造するパートナーを見つける。