日本マイクロソフトは10月16日、企業への生成AIサービス導入におけるパートナー戦略説明会を開催した。
まず同社 執行役員 常務パートナー事業本部長の浅野智氏が登壇し、生成AIをめぐる現状を整理した。総務省の『令和6年版情報通信白書』を引用し、日本は生成AIの利用初動は速かったが、他国と比較すると個人利用率が低いと指摘。別の調査では、生成AIの活用効果が「期待を大きく上回っている」と回答した割合が、米国は33%に対して、日本は9%に留まるとし、活用効果に対する期待との差分が大きいとした。その上で日本マイクロソフトでは、生成AI活用に必要なこととして「AIを創る」「AIを使いこなす」の2つを挙げる。それぞれの取り組みについて、同社パートナー企業が説明した。
「AIを創る」では、日立製作所 Generative AIセンターの吉田順氏が登壇。同社では、2023年5月に生成AI活用のCoEとしてGenerative AIセンターを立ち上げ、ナレッジを貯めながら、生成AI共通基盤の整備や活用人材の育成に取り組んでいる。吉田氏は生成AI活用の現状として、現在では業種に関わらずニーズが拡大しているものの、社内環境を展開しても活用している社員が1~2割に留まることが多いと話し、「これではもったいない状況になるので、ユースケースづくりが非常に大事」と強調。
同社では日本マイクロソフトなどのパートナーと連携しながら、ユースケースを作っており、現在では1,000件以上に上るという。吉田氏はその中から、システム開発での生産性を30%向上したり、コールセンターでの回答時間短縮したりしていることを紹介した。顧客事例では、熟練者がもつナレッジをRAGに集約し、属人化業務の解消に役立てている。
日立グループでは、27万人の従業員のうち、2027年をめどに「GenAI Professional」というプロ人材を5万人育成する目標を掲げているという。日本マイクロソフトが提供する研修などを利用していく計画だ。
吉田氏は最後に「この先はユースケースだけでなく、業務全体のDXになる。システムエンジニアや製造業、鉄道、電力で人手不足が起きているので、そういう社会課題の解決に日本マイクロソフトと一緒に取り組んでいきたい」と話した。
次に、ギブリー 取締役 Operation DX部門長 山川雄志氏が登壇し、「AIを使いこなす」に関する取り組みを紹介。同社はこれまで500社以上に生成AI活用の支援をしてきた経験から、幅広い業務に適用できる一方で、「定着のしやすさや利用の強制力は働きづらく、現場の工夫ありきで利用が進んでいく。そのため、工夫を考えない限りは利用が浸透しない」と指摘した。
同社の支援事例として住友商事を挙げる。住友商事では、Copilotを9,000人に導入したが、最初は有効活用できない課題などがあったという。山川氏は利用イメージを持ってもらうことが重要だとし、生成AIが使える業務を洗い出し、それぞれに応じた「ゴールデンプロンプト集」を作成し、配布する戦略をとった。
社内浸透させるためのメソッドとして、「生成AIを活用できるユースケースづくりをDX推進チームだけでなく、現場の方々を巻き込んで一緒にやっていくことだ。アンバサダーを設置し、推進とモニタリング体制を作って、ゴールデンプロンプトを作成し、成果を創出し、定着を図っていくこと」とした。ここで重要なポイントに山川氏は、現場のユーザーがプロンプトを作る工数を確保したり、生成AIを使って業務生産性を上げた人を評価し報酬につなげたりといった、経営側のコミットが必要だと述べる。
生成AI活用率向上に必要な要素は、利用者側のスキルを強化する「人材スキル開発」に加えて、技術的なアプローチとして「システム最適化」も必要であると説く。たとえば、チャット画面のまま利用者に解放してもどう使えばいいかわからない人が少なくない。そのため、「生成AIが勝手に裏で動いてるような状態を作っていくUI/UXや、自社のデータと最適に連携させるようなRAGやファインチューニングのような技術を活用し、両輪で進めていく必要がある」と話した。
日本マイクロソフトは2023年10月に「生成AI事業化支援プログラム」を立ち上げたが、この1年間の成果を紹介。10月から始まった第2期では、参画企業を250社に拡大し、事例を300件に増やす計画だという。
【関連記事】
・日立とマイクロソフト、3年間で数十億ドル規模の協業へ 戦略的パートナーシップ契約を締結
・防衛省が本格的にクラウドツールを利活用へ──日本マイクロソフトが行政機関向けの取り組みを発表
・アドビ代表取締役社長に中井陽子氏が就任 マイクロソフトでの経験を日本でのサービス提供へ活かす